日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 機械学習による固体地球科学の牽引

2025年5月26日(月) 13:45 〜 15:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、直井 誠(北海道大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、田中 優介(国土地理院)、座長:田中 優介(東北大学)、久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

14:00 〜 14:15

[SCG60-02] スロースリップイベント検出を目的としたInSAR時系列データへの異常検知手法開発

*櫻井 隆之介1木下 陽平1 (1.筑波大学)

キーワード:InSAR、機械学習、異常検知、スロースリップイベント

スロースリップイベント(SSE)は、測地学的帯域で観測されるスロー地震として知られており、巨大地震との関連が指摘されている(Obara and Kato, 2016)。測地学的手法によるSSEの検出には主にGlobal Satellite Navigation System (GNSS) が用いられてきた。GNSSは、地表の微小な変位をミリメートル単位で測定可能で、SSE発生期間中の地表面変位を連続的に記録することができる。しかし、GNSSは地上観測点の設置が必要なため、SSEの観測事例があるのはGNSS観測点が設置されている地域に限定される。観測点が少ない地域では、SSEの発生を見逃している可能性がある。InSAR(Interferometric Synthetic Aperture Radar)は、地表面変位の分布を高精度で計測できる技術である。InSARは地上に観測点を設置することなく、昼夜の影響を受けず降雨の影響も受けにくい特徴があり、高い分解能の地表面変位を検出することができる。InSARによるSSEの検出事例は、2006年にメキシコゲレロ州でのSSEの観測(Cavalié et al., 2014)や2018年に房総半島沖で発生したSSEの観測(Kinoshita and Furuta, 2024)が報告されている。ただしいずれの先行研究においても地表面変位シグナルの特定は最終的に解析者の目視判断に頼っている。本研究は、SSEによる非定常な地表面変位を効率的かつ客観的な検出するために、InSAR時系列データの異常検知手法を開発することを目的としている。地上観測点が不要なInSARの特性を活かし、GNSS観測網が十分でない地域でのSSEの検出を目指す。
本研究ではまず、矩形断層モデル(Okada, 1992)を用いてSSEによる地表面変位を模した変位シミュレーションデータを作成した。InSAR観測には大気に起因する誤差が含まれるため、平均3 cm , 標準偏差1 cm の正規分布に従う確率変数とガウシアンフィルターの適用により、大気遅延の攪乱成分を再現した。実際のInSAR時系列データには他にも標高相関遅延ノイズや電離層によるノイズが含まれるが、いずれも有効な補正手法があることから本シミュレーションには含めていない。シミュレーションではSAR観測が14日周期で50回行われたとし、SSEによる変位継続期間は2か月とした。以上のシミュレーションデータのセットを100セット用意し、シグナル検出の能力を評価した。シミュレーションデータに対してスライド窓k近傍法という機械学習手法を用いて異常検知を行った。スライド窓k近傍法ではまず、1つの時系列データを隣接する複数の観測値でまとめて、複数の部分時系列の集まりとして表した。そして、変位が起きていない期間の複数の部分時系列を基準として、その後の部分時系列と基準とした複数の部分時系列との距離のうち、最小値を異常度として定義した。本研究ではまずSSEによる断層変位を26 ~ 30回目の観測の間に発生させ、20回目の観測までの部分時系列の集まりをスライド窓k近傍法の基準とした。
スライド窓k近傍法を用いて異常検知をした結果、変位量の最大振幅とノイズの最大振幅(正規分布の95%点)の比が 0.4 程度、すなわちシグナルの振幅が2.0 cm までノイズレベルを超えた異常度が検出された。1つの時系列での異常度の推移をみていくと、SSEが発生中の期間は、異常度が増加傾向にあり、SSEが発生後は異常度が高い状態を維持していた。変位期間中に変位方向と逆方向のノイズが発生した場合、異常度が低い状態を維持する場合もあったが、SSE終了後遅れて異常度が上昇していき、SSE終了後3回程度観測が行われれば、高い異常度になっている場合がほとんどだった。またシミュレーションデータに対して移動平均を適用したのちに、異常検知を行うと、変位がないノイズのみのケースに対して異常度の増加を抑えることができ、変位を含むケースとの差が広がった。
このように、シミュレーションデータへの異常検知からInSAR時系列データへの異常検知がSSE検出に有効な可能性が示された。今後、SSE発生地域のInSAR時系列データへの適用を行い、モデルの実用性を評価する。