日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 機械学習による固体地球科学の牽引

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、直井 誠(北海道大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、田中 優介(国土地理院)

17:15 〜 19:15

[SCG60-P08] ニューラル作用素による地震サイクル計算および長周期地震動予報の検討

*岡崎 智久1縣 亮一郎2加納 将行3佐藤 大祐2染矢 真好4福嶋 陸斗5 (1.理化学研究所革新知能統合研究センター、2.海洋研究開発機構、3.東北大学、4.東京大学地震研究所、5.スタンフォード大学)

ニューラル・ネットワーク(Neural Network, NN)に基づく深層学習は大量のデータと計算機の発展を背景に急速に進展し、画像認識や自然言語処理などで画期的な成果を挙げ、自然科学の諸分野に波及した。その一方で、自然現象の記述・予測においては、偏微分方程式などの物理法則とその数値解法が重要な役割を果たしてきた。2010年代末より、機械学習と物理理論・科学計算を融合させる科学的機械学習(Scientific Machine Learning, SciML)が研究潮流となり、代表的手法である物理情報ニューラル・ネットワーク(Physics-Informed Neural Network, PINN)やニューラル作用素(Neural Operator, NO)は地震学にも導入され始めている。しかし日本国内では、PINNは普及しつつあるが(e.g., Okazaki et al., 2022; Agata et al., 2023; Fukushima et al., 2023, 染矢・古村, 2023地震学会)、NOの研究例は未だほとんどない。そこで本研究では、PINNの経験やSciMLへの関心がある研究者たちで、NOの地震研究への活用可能性を検討した。
 NNが有限次元ベクトルを入出力変数とする「関数」を学習するのに対し、NOは関数などの無限次元量を入出力とする「作用素」を学習することを目的とする。こうした作用素学習(Operator Learning, OL)の問題設定は、与えられた初期条件に対する時間発展の予測や、与えられた物性値の空間分布に対する物理系の応答の推定など、連続変数で記述される自然現象の解析において普遍的に現れる。計算機では無限次元を直接扱えないので、OLを実行するには入出力の離散化を必要とする。そこでNOでは任意の離散化に対し作用し、その細分極限で単一の連続作用素に収束する「離散化不変性」を満たすようNNを設計する(Kovachki et al., 2023)。これまでに複数のNOモデルが提案されている中で、フーリエ変換に基づくフーリエ・ニューラル作用素(Fourier Neural Operator, FNO) (Li et al., 2021)が標準的手法として用いられており、地震学でも与えられた地下構造に対する地震波動場の予測(e.g., Yang et al., 2021)などに応用されている。
著者一同は、2024年初めにSciMLに関する勉強会を開始した。6月にFNOの基本原理と実装を習得し、7~11月にかけてFNOで取り組む地震学課題の選定やデータセット等の事前準備を行った。そして12月4~6日の3日間にわたって対面形式で集中的にプログラミングに取り組むハッカソンを実施した。そこで得られた知見を整理・発展させて発表する。具体的には以下の2課題に取り組んだ。
 1.地震サイクル計算
 地震サイクル計算においては、静弾性応力グリーン関数と断層すべり速度の畳み込みにより、断層応力の準静変化を評価することが標準的である。これは、境界積分方程式法(BIEM)の断層力学的応用であり、グリーン関数行列と断層すべり速度ベクトルの積を計算している。静弾性BIEMの計算・メモリ使用量のオーダーは離散化次元Nに対してO(N2)となり、大規模問題への適用には工夫が求められる。本課題は、この畳み込みを低い計算オーダー(O(N logN))で実現するFNOの構築を試みた。学習データは、ガウス過程によるランダムな断層すべり速度分布の入力データと、それをグリーン関数行列にかけ合わせた出力データの組とした。
 学習済みFNOを速度状態依存摩擦則(Dieterich, 1979)に基づく準動的地震サイクル計算に組み込んでスロースリップの再現計算(Hirahara & Nishikiori 2019)を再試したところ、元のBIEMとよく合致する結果が得られた。地震サイクル中の滑り分布ではなくランダムな滑り基底を学習したFNOでも地震サイクルが計算できたことは、FNOがグリーン関数の線形性を発見できたことを示唆し、特筆すべきである。発表においては、計算性能や計算精度等に関する検討内容を紹介する。
 2.長周期地震動予報
 巨大地震により、震源から遠く離れた堆積盆地で長周期地震動が生じ、高層建築物に被害を及ぼすことがある。そこで早期警報への応用を念頭に、震源近傍の観測点における地震波形記録から目標観測点における地震波形を予測するFNOを構築した。Furumura and Oishi (2023)に倣い、東北地方太平洋沖で発生した地震に対し、福島県(HROF)から神奈川県(YFTH)の地震波形を推定した。水平2成分(東西・南北)を独立に扱い、速度波形と疑似速度応答スペクトルの予測性能を評価した。解析には防災科学技術研究所のHi-netとF-netの観測記録を使用した。
 FNOの基本設計を検討したところ、波形振幅を個々の波形データごとに規格化すること、設定パラメタである最大波数を典型的な数十程度ではなく数百以上に設定すること、が肝要であった。発表では水平2成分の同時入出力や複数観測点の入力などの検討結果を合わせて紹介する予定である。