日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 機械学習による固体地球科学の牽引

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、直井 誠(北海道大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、田中 優介(国土地理院)

17:15 〜 19:15

[SCG60-P14] 単斜輝石の高温高圧実験データの多変量解析による平衡メルトの物理化学情報推定法の評価

*川合 陵介1岡田 郁生2宗近 俊祐1柴田 知之1 (1.広島大学大学院先進理工系科学研究科、2.蒜山地質年代学研究所)


キーワード:単斜輝石、高圧実験データ、機械学習、桜島火山、平衡メルト

安山岩マグマの多くは,異なるマグマの混合を経て生成されていると考えられている(Sakuyama, 1981)。マグマ混合を経験している場合,端成分マグマの成因やそれらの相互の関係を,全岩化学組成から定量的に制約することは,困難である。一方で,斑晶鉱物には,晶出から噴出に至るまでのマグマの進化過程が記録されている。斑晶鉱物の化学組成からマグマの温度・圧力を推定する手法として,これまで両輝石温度計(例えばLindsley, 1983; Putirka, 2008),角閃石単相温度計(例えばPutirka, 2016),角閃石単相圧力計(例えばRidolfi & Renzulli, 2012)などの地質温度・圧力計が用いられてきた。しかしながら,正確な温度の見積もりを行うための前提条件には制約が多くある場合もある(例えば両輝石温度計)。また,安山岩に角閃石を含むとは限らない。そのため,安山岩が最も卓越する沈み込み帯におけるマグマ活動を理解する上では,前述の手法を用いた研究には限界がある。近年は,火山岩中に角閃石よりも広く含まれる単斜輝石の化学的性質に注目し,晶出時に平衡共存するメルトの温度・圧力を推定する経験式が提案されてきた(例えばNimis, 1995; Nimis & Ulmer, 1998; Nimis, 1999; Nimis & Taylor, 2000; Wang et al., 2021)。また,単斜輝石の高温高圧実験データを機械学習で多変量解析することで,平衡メルトの温度・圧力,さらには主成分元素組成を推定する手法も紹介された(Petrelli et al., 2020; Higgins et al., 2021; Jorgenson et al., 2022; Chicchi et al., 2023)。これらの推定法を天然の安山岩等に適用することができれば,単斜輝石の主成分元素組成を用いて,平衡メルトの物理化学情報を推定することが可能となる。 
本研究では,琉球弧上の第四紀火山である桜島火山の火山岩中の単斜輝石の主成分元素組成から平衡メルトの物理化学情報を推定するために,前述の経験式および機械学習を用いた推定法を適用した。桜島火山は現在も活発な火山活動が続いており,多くの地球物理化学的研究が行われている。したがって,前述の手法を用いた推定の結果が,先行研究で報告されているマグマの物理化学情報と調和的どうか比較することで,推定法が桜島火山の単斜輝石を用いた温度・圧力や平衡メルトの主成分元素組成を推定するツールとして機能するかどうかを評価することが本研究の目的である。
約200個の単斜輝石の主成分化学組成をEPMAで測定し,それらのデータを用い機械学習で平衡メルトの温度・圧力を推定したところ,全ての単斜輝石は温度956-1147℃,圧力654 MPa(深さ約29 km)までの範囲で晶出しているという結果が得られた。しかしながら,1つの単斜輝石であっても,手法ごとに推定温度・圧力が異なり,推定結果の不確実性や誤差も大きい結果となった。また,経験式を用いた圧力推定結果は,負の値が出力される場合や,先行研究(例えばAraya et al., 2019)で報告されているマグマの蓄積深度を大きく上回る圧力推定値が出力される場合など,不自然なものであった。一方,機械学習を用いた平衡メルトの主成分元素組成の推定については,Na2Oを除いて,天然試料が一般的に示す化学組成の変化と類似した傾向を示した。これらの結果から,桜島火山の単斜輝石から平衡メルトの温度・圧力を推定することは,推定法ごとに異なる結果を示す各推定法間の不均一性が生じることから,現時点では実用的では無いと結論付けた。本研究では,温度・圧力推定における不自然な傾向や手法による推定結果の違いが,各推定法で用いている高温高圧実験データの数や種類の違い,アルゴリズムの1つであるランダムフォレストの仕組み,適用外の化学組成をもつ単斜輝石のデータを用いることに起因すると考え,各推定法の信頼性,精度,および限界について評価する。