日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2025年5月29日(木) 15:30 〜 17:00 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、桂木 洋光(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、澤 燦道(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、村松 弾(東京大学地震研究所)、座長:澤 燦道(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)

15:45 〜 16:00

[SCG62-12] ε-FeOOHの高温高圧変形実験

*西原 遊1呉 文天1高市 合流1張 友悦1辻野 典秀2柿澤 翔2肥後 祐司2 (1.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、2.高輝度光科学研究センター)

キーワード:高圧含水鉱物H相、ε-FeOOH、変形実験、下部マントル

高圧含水鉱物H相(MgSiO2(OH)2)は、下部マントルの岩石がスラブによって持ち込まれた水と反応することにより生成すると考えられるうえ、大きな単結晶弾性異方性を持つことから(Tsuchiya and Mookherjee, 2015)、地球下部マントル上部に観測される地震波異方性(Ferreira et al., 2019)の成因として有力な候補である。本研究では、H相と同一結晶構造を持つアナログ物質でより低圧で安定なε-FeOOHの高温高圧変形実験を行ない、変形誘起結晶選択配向と流動強度を明らかにし、H相の変形が下部マントル上部の物質移動と地震波異方性に与える影響を明らかにすることを目指した。
 変形実験はSPring-8、BL04B1設置のD111型装置を用いて行った(e.g. Wu et al., 2024)。12 GPa, 700 ºCで合成したε-FeOOHの粉末を成型したペレット、または粉末をさらに12 GPa, 600 ºCで加熱して得た焼結体を実験に用いた。先端5 mmのアンビル、一辺10 mmの圧力媒体を用いて、圧力12 GPa、温度350−700 ºCで一軸圧縮、一軸引張および単純剪断変形実験を行なった。~60 keVの放射光単色X線を用いたX線その場観察を行い、変形中の試料の歪と差応力を決定した。回収試料の断面をSEM-EBSDにより分析し、結晶選択配向を決定した。
 歪速度およそ10-5−10-4 s-1の条件下での変形における定常応力値は強い温度依存性を示し、350 ºCでは1.4−2.0 GPaの高い応力値であったのに対し、600 ºCでは約0.1 GPa程度まで低下した。この流動強度は無水のマントル鉱物より圧倒的に低く、マントルにおけるH相の存在が変形の局所化を引き起こす可能性が示唆される。また、一軸圧縮、一軸引張および単純剪断変形実験の回収試料のEBSD分析により得られた結晶選択配向は、一致して実験条件下でのε-FeOOHの支配的なすべり系が(010)[001]であることを示した。得られたε-FeOOHの選択配向とH相の弾性定数(Tsuchiya and Mookherjee, 2015)を用いた計算により、下部マントルで変形を受けたH相の地震波異方性を見積もった。その結果、下部マントル上部の条件下で水平方向の剪断変形を受けたH相が「海溝に平行」なS波分裂を示し、VSV > VSHVSVVSHはそれぞれ鉛直方向と水平方向に振動するS波の速度)の異方性を持つことが分かった。一方で鉛直方向の剪断変形を受けたH相は、「海溝と直交」するS波分裂を示し、VSV < VSHの異方性を持つことが分かった。このことは、H相の結晶選択配向が下部マントル上部のスラブ近傍の多様なS波異方性の成因の一つである可能性を示唆している。