日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、桂木 洋光(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、澤 燦道(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、村松 弾(東京大学地震研究所)

17:15 〜 19:15

[SCG62-P02] 地球物質の超塑性: 神居古潭帯に産する石灰質片岩の例

*松山 和樹1,2道林 克禎1,3 (1.名古屋大学大学院 環境学研究科(岩鉱)、2.モンペリエ大学 地球科学部門、3.海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター)


キーワード:超塑性、石灰質片岩、結晶方位定向配列、神居古潭帯

超塑性(superplasticity)とは,材料科学においては“物質がある条件下で,少なくとも400%に及ぶ引張伸びを示す現象”(Langdon, 2009)と定義され,地球科学においてはその超塑性を発現させるメカニズムのことを指す用語としても用いられる(平賀, 2017)。超塑性の主なメカニズムは粒界すべり(GBS)の発生であることが実証されており(Langdon, 1994),下部地殻やマントル内部でも発現すると推測されてきた(Boullier & Gueguen, 1975)。しかしながら,超塑性がもたらす岩石の微細構造と,変形前の微細構造は類似した特徴が多く(平賀, 2017),地球物質での超塑性発現の確認は困難を極める。一方,人工鉱物多結晶体の変形実験による超塑性の発現が報告され,そのメカニズムが粒子スイッチングと動的粒成長で説明された(Hiraga et al., 2010)。この研究によって岩石も超塑性を発現することが実証され,地球物質(天然の岩石)と超塑性変形後の微細構造を比較検討することが可能となった。
本研究では,北海道の神居古潭変成帯から採取した石灰質片岩にみられた超塑性変形の特徴について報告する。北海道の神居古潭変成岩は,典型的な低温高圧型の変成岩の一つとして知られる(例えば,Banno, 1986)。採取した石灰質片岩について,面構造に垂直な面で薄片を作成し,走査型電子顕微鏡による組織観察とEBSD法による結晶ファブリックの解析を実施した。石灰質片岩は細粒の方解石と石英粒子からなり,その平均粒径は方解石で約30 µm,石英で22 µmである。2相の面積比はおよそ1:1で,方解石は面構造に対して鉛直方向に連結する組織が,石英は局所的に集合する組織が特徴的であった。結晶方位定向配列は方解石,石英ともにランダム(pfJ-indexが1.1未満)だが,方解石の形態定向配列(SPO)では50°と90°で弱いピークを示した。
本研究で分析した石灰質片岩の微細組織は,超塑性を経験した二相系高エントロピー合金の組織によく類似する(例えば,Reddy et al., 2023)。加えて,方解石が示した連結構造は,超塑性変形後の合金やセラミックスでもしばしば報告されている(Maehara & Ohmori, 1987; Hiraga et al., 2002)。また,石灰質片岩が結晶方位定向配列を示さないことは,主要な変形機構が転位クリープや拡散クリープではなく,粒界すべりであったことを示唆する。さらに,方解石が示す連結構造とSPOの50°と90°のピークは,粒界すべりによる粒子スイッチングの活動(Hiraga et al., 2010)によるものと解釈される。方解石-石英2相系の組成流動は,これまでに実験研究による検討がなされているものの,その数は限られる(例えば,Rybacki et al., 2003; Renner et al., 2007)。一方で,方解石は粒径約30–40 µm,500℃で粒界すべりを卓越させることが明らかになっており(Cross & Skemer, 2007),これは本研究で観察された方解石の平均粒径,神居古潭帯の最高変成温度(竹下ほか, 2018)と調和的である。以上のことから,本研究で解析された石灰質片岩は超塑性変形を被ったことが示唆された。

引用文献:
Boullier & Gueguen (1975) Contrib. Mineral. Petrol. 50.
Cross & Skemer (2007) JGR Solid Earth 122.
平賀 (2017) 地質学雑誌 123(6).
Hiraga et al. (2002) Jour. Am. Ceram. Soc. 85.
Hiraga et al. (2010) Nature 468.
Langdon (1994) Mater. Sci. Eng. A 174.
Langdon (2009) J. Mater. Sci. 44.
Maehara & Ohmori (1987) Metall. Trans. A 18.
Reddy et al. (2023) Metall. Mater. Trans. A 55A.
Renner et al. (2007) J. Geophys. Res. 112.
Rybacki et al. (2003) J. Geophys. Res. 108.
竹下ほか (2018) 地質学雑誌 124(7).