日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)、座長:小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)

11:15 〜 11:30

[SCG63-03] 機械学習による早期地震警報の新たなアプローチ:ノイズ識別としきい値超過判定の同時予測

*野田 俊太1、岩田 直泰1是永 将宏1 (1.(公財)鉄道総合技術研究所)

キーワード:早期地震警報、機械学習、再帰型ニューラルネットワーク、オンサイト警報

早期地震警報システムでは、地震計のデータを基に、ノイズ識別、P波開始時刻決定、地震諸元の推定、地震動予測式などを使用した被災リスクの判定、必要に応じたマグニチュードの更新など、複数の処理が連続して行われる。この従来処理フローでは、複数の処理を組み合わせなければ警報判定ができず、地震発生時には処理負荷が急激に増大する問題がある。
近年、機械学習技術が急速に発展し、早期地震警報への応用が期待される。野田・岩田(2024, 地震学会秋季大会)は、地震動や列車振動などを対象としたノイズ識別にLSTM(Long Short-Term Memory)やGRU(Gated Recurrent Unit)といった再帰型ニューラルネットワーク法を適用し、現行地震計での処理手法より大幅に識別精度が向上することを示した。また、野田・他(2023, 地震工学シンポジウム)やNoda (2024, BSSA)では、地震諸元推定に畳み込みニューラルネットワーク法を用いることで精度の向上を確認した。これらは、従来フローの各処理を個別に機械学習モデルへ置き換える手法だが、機械学習は既存技術と比べて一般的に演算負荷が高い。そのため、特に従来処理フローのように複数の処理を組み合わせる手法の地震計への実装には、地震発生時の処理遅延を防ぐための慎重な検討が求められる。
一方、機械学習技術は非常に汎用性が高く、多様なデータ特徴を学習しつつ、出力(目的変数)を柔軟に設定することができる。本研究ではこの特性に着目し、野田・岩田(2024, 地震学会秋季大会)で報告されたノイズ識別処理を更新し、より簡潔なフローで警報判定を行う手法を開発した。
野田・岩田では「地震動か非地震動か」を分類する手法を採用していたが、本研究では「しきい値超過の有無」に着目した分類を行った。地震動であってもしきい値を超えない場合には、列車振動や常時微動などの非地震動と同じカテゴリに分類する。これにより、観測された三成分加速度データを機械学習モデルに入力することで、非地震動を排除しながら、従来のような諸元推定や地震動強さの予測を経ることなく、しきい値超過の確率を直接出力できる。この仕組みによって、従来処理フローで必要だった複数の手法を順次実行する処理が不要となり、地震の有無に関係なく一定の処理を繰り返すだけで済む。結果として、地震発生時の演算負荷の増大が無く、地震計への実装が容易になる。
作成した機械学習モデルの分類精度は以下の通りである。使用したデータは、野田・岩田(2024, 地震学会秋季大会)と同一であり、列車振動などのノイズデータ、およびK-NETと新幹線地震計の地震波形データである。しきい値としてJR-PGA(5Hzローパスの水平二成分合成最大加速度; 中村・他, 2005)40galを設定し、しきい値超過無しをラベル0、超過有りをラベル1として教師データを作成した。機械学習モデルにはLSTMおよびGRUを用い、それぞれ1sごとに切り出した三成分の加速度値(シーケンス)を入力し、その都度分類結果(確率値)を出力させる。LSTMとGRUで分類精度に有意な差は見られなかったため、以下にはLSTMモデルによる結果を示す。分類は、得られた確率値が0.5未満の場合をしきい値超過無し、0.5以上の場合を超過有りとして行った。
本モデルによる分類精度について、非地震動データの再現率は99.9996%という極めて高い値を示した。これは、列車振動などのノイズがJR-PGA 40galを超過することがほぼないためであり、モデルがノイズをほぼ正確に除外できることを意味する。
次に、しきい値超過の無い地震動に対する再現率は88.6%となった。この評価では、一つの波形記録内で一度でも超過有りと判定された場合に分類失敗と見なしている。超過無しと正しく判定されたデータのJR-PGA平均値は5.3galであり、超過有りと誤判定されたデータの同平均値は24.2galであった。この結果は、JR-PGAがしきい値に近い値を取るデータでは分類が難しく、誤判定が生じやすいことを示唆している。
さらに、しきい値超過有りの地震動に対する再現率は99.6%と非常に高い値を示した。ここで、一つの波形記録内で一度でも超過有りと正しく判定された場合に分類成功と見なしている。また、得られた結果から、P波開始から3秒以内に超過有りと判定されたデータが全体の54%に達することが確認された。一方で、漸化式フィルタにより計算された実際のJR-PGAの時刻歴では、P波開始から3秒以内に40galを超過したデータは全体の4.3%に過ぎなかった。この差は、LSTMモデルがP波振幅からS波振幅を予測しており、実際の振幅が大きくなる前にしきい値超過を予測できていることを示している。以上より、従来手法と比較して早期に警報判定を行う可能性が示された。
本研究で提案した手法は、観測されたデータに基づいてその周辺地域に警報を発する、いわゆるオンサイト警報に相当する。今後は、より広範囲にわたる地域に警報を出力する、リージョナル警報への拡張手法の開発を目指す。