日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC37] Volatiles in the Earth - from Surface to Deep Mantle

2025年5月27日(火) 13:45 〜 15:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、Caracausi Antonio(National Institute of Geophysics and Volcanology)、清水 健二(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、Chairperson:Antonio Caracausi(National Institute of Geophysics and Volcanology)、清水 健二(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

14:30 〜 14:45

[SGC37-09] イタリアのオフィオライト中のオフィカーボネイトに含まれる流体包有物の水素酸素同位体比が記録する中央海嶺下の熱水

*川本 竜彦1植村 立2、金子 広幸1、大澤 陽介1犬飼 知宏1、影田 樹哉1田阪 美樹1谷内 元3、Koga Kenneth4、Rose-Koga Estelle4、Meneghini Francesca6、Nicollet Christian5 (1.静岡大学理学部地球科学科、2.名古屋大学大学院環境研究科、3.産業技術総合研究所、4.オルレアン大学、5.クレルモン オーベルニュ大学、6.ピサ大学)

キーワード:オフィカーボネイト、酸素同位体比、水素同位体比

オフィカーボネイトとは蛇紋岩に炭酸塩鉱物が含まれる岩石を指す。フランス、イタリア国境付近からイタリアにかけては、海洋プレート層序をもつオフィオライトが、ほとんど沈み込んでいない低変成度から高変成度を受けた岩石とともに観察される。本研究では、それらオフィカーボネイトの鉱物共生関係と炭酸塩鉱物に含まれる流体包有物の塩濃度、均質化温度、水の酸素水素同位体比について報告し、これらのオフィカーボネイトの生成場所を議論する。

オフィカーボネイトの鉱物組み合わせは、蛇紋石+滑石+カルサイト+ドロマイトの4相で、これらが同じ薄片に存在する特徴を持つ。Perple_X6.9.1の熱力学計算では、この4相が共存するのは、低圧力低温度条件で流体中のCO2の分圧が低い場合である。例えば、0.1 GPa、<330℃、<0.02 XCO2のような条件から、1G Paだと<0.002 X CO2と更に二酸化炭素の分圧が低い条件で安定である。二酸化炭素の分圧X CO2=0.002は海水中の二酸化炭素の分圧に相当する。流体包有物(Chenaillet、Lago nero、Queyras、Monviso、Apenninesの5試料で測定)は塩水で、その塩濃度は3ないし7重量%NaCl当量の試料が多く、均質化温度は170ないし240℃程度が多い。この中で流体包有物が豊富な3試料(Lago nero 5.7±0.9 wt.%NaCl、均質化温度219±24℃、Monviso 6±1.4 wt.%NaCl、均質化温度197±20℃、Apennines 4.1±1.4 wt.%NaCl、均質化温度180±13℃)では、炭酸塩鉱物中の流体包有物の酸素と水素の同位体比を測定した。

流体包有物の同位体測定は、名古屋大学環境学研究科の植村立博士によって行われた(Uemura et al., 2014, Geochimica Cosmochimica Acta)。薄片観察によって流体包有物を多く含むカルサイトを選び、その含水量を測定し、規定量以上の水を有する流体包有物を含むカルサイトと、一部カルサイトに加えてドロマイトを含む試料を選んだ。試料は前もって含水量を測定した。130℃の温度において、内部を真空に保った鉄製の乳鉢内で試料約700 mgを粉砕し流体包有物の流体を気化させた。これを水蒸気のキャリアーガスによって、キャビティリングダウン分光法を用いたPiccaro社製の分光器に挿入し、流体の酸素と水素の同位体比を測定した。標準物質となる水の同位体比と含有量をもとにした検量線を用いて未知試料の同位体比を推定した。未知試料は25―30分の間隔をおくことによって装置内のメモリーを軽減した。

水素と酸素の同位体比の結果は、これらの流体包有物の流体は海嶺下での熱水に近く、オフィカーボネイトは海底下で形成されたことを示すと解釈できる。特に北部のアペニン山脈の岩石は低変成度の変成岩とともに算出し、従来の研究でも、海洋底付近で形成したオフィカーボネイトと提案されていた(Cannaò et al., 2020, Chemical Geology)。アペニン(A)の値や、これまで推定された海洋底熱水に近い。モンヴィソ(M)とラゴネロ(Ln)は、アペニン(A)よりも水素と酸素同位体比ともに軽い傾向にある。ラゴネロ(Ln)は低圧の変成作用を受けた岩石であるが、モンヴィソ(M)はより高圧のエクロジャイト相の変成岩に囲まれており深さ75 kmまで沈み込んだと提案されている。これらのオフィカーボネイトも海洋底で形成されたのであろうか。

これに対して、海洋プレートの沈み込みに伴って脱水した流体がマントルウェッジに供給される時の流体の深さと水素酸素同位体比のモデルが提案されている(Kusudaほか、2014、Earth, Planets, and Space)。モデル計算は30 kmから100 kmまでなされている。モデルと分析値を見比べると30 kmで放出される流体は海洋底の熱水の組成に近いとも言える。そのため、アペニン(A)の流体包有物の水素酸素同位体比の特徴は、中央海嶺下の熱水の組成とも、低圧で沈み込む海洋プレートから放出された流体の組成とも近い。ラゴネロ、モンヴィソの順に天水線に近づくため、そのような海洋プレート由来流体と天水との混合線にも見える。しかし、天水線に一番近いモンヴィソの流体包有物も6%の塩濃度を持つため、天水との混合で形成されたとは考え難い。このため、同位体比だけからは、海嶺下の熱水と沈み込む海洋プレートからの脱水流体かを区別することは困難である。しかし、Kusudaほか(2014)の計算では、海洋プレート由来の流体の水素酸素同位体比は沈み込む海洋プレートの深度とともに変化するが、本研究データでは大きく変化しない。イタリアのオフィオライトのオフィカーボネイトは中央海嶺下の海水起源の熱水活動で形成されたと提案する。比較的低圧条件で形成された炭酸塩は変成作用でも大きく変化せず、流体包有物の化学組成は保たれたと推論する。