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[SGC38-01] パイロライトモデルによる始源的マントルの強親鉄元素組成の再評価
キーワード:始源的マントル、カンラン岩、マントル化学進化、オフィオライト
強親鉄元素(Highly Siderophile Elements: HSE [Ru, Rh, Pd, Re, Os, Ir, Pt, Au])は、地球内部では金属核に濃集しており、ケイ酸塩マントル中での存在度は極微量(µg/gレベル)である。しかし、極微量であるが故に、マントルのHSE濃度は金属相が関与する過程に敏感であり、地球形成時の核−マントル分離過程およびその後の核−マントル相互作用などの実態を解明する上で鍵となる。特に、核と分離した時点におけるマントル(始源的マントル)のHSE組成を正確に推定することは、マントルの化学進化の出発点を制約するという意味で極めて重要である。始源的マントルのHSE組成の推定は、Al2O3など部分融解によって取り去られる成分(メルト成分)に富む組成をもつ肥沃なカンラン岩の組成に基づいて行われてきた(例えばBecker et al., 2006; Fischer-Gödde et al. 2011)。なぜなら、部分融解を被っている度合いが低いカンラン岩ほど、より始源的な組成を保っていると考えられるからである。しかし、肥沃カンラン岩の多くは、メルト成分に枯渇したカンラン岩に苦鉄質メルトが後から付け加わる過程(refertilization)によってもとの組成を改変されていると考えられるため、始源的マントルの推定には実際は適さない。始源的マントルのHSE組成のより正確な推定方法としては、マントルから取り去られたメルトと溶け残りカンラン岩との混合物の組成を始源的とみなす「パイロライトモデル」(Ringwood, 1962)をHSE組成に適用する方法がある。しかし、枯渇カンラン岩のHSE組成はメタソマティズムなどの二次的な改変過程の影響を受けやすく、溶け残りマントルを代表するHSE組成を選ぶことが難しい。パイロライトモデルにより始源的マントルのHSE組成を推定するには、二次的改変の影響の少ない枯渇カンラン岩のデータが必要である。そこで本研究では、インドネシア東部のチモール−タニンバルオフィオライト(TTO)に含まれる、二次的な組成改変の影響が極めて少ない枯渇カンラン岩のHSE組成データを用いて、パイロライトモデルと同様の計算により始源的マントルのHSE組成を推定することを試みた。マントルから取り去られたメルト成分は、マントル起源メルトの中で最も多量に生成されている中央海嶺玄武岩(MORB)のHSE組成データを用いた。計算の結果得られたTTO枯渇カンラン岩とMORBとの混合物(TTOパイロライト)のHSE濃度は、Beckerらが推定した始源的マントル(B-PM)のHSE濃度と±35%以内で一致する。TTOパイロライトのHSE相対濃度はB-PMと同様におよそコンドライト的ではあるが、B-PMにみられるような顕著なRu・Pdの濃集はみられない。また、Re濃度が顕著に高く、Re/Os・Re/Irはコンドライトの1.5倍を超える(B-PMでは1.1倍程度)。B-PMがrefertilizationの影響を受けた肥沃カンラン岩の組成を基に推定されていることを考慮すると、このようなTTOパイロライトとB-PMとの差は、refertilizationに起因するとみなすことができる。これは、肥沃カンラン岩の組成が主成分元素については始源的マントルに似ていることと対照的である。もしTTOパイロライトが真に始源的マントルのHSE組成を代表しているとしたら、珪酸塩地球のRe/Osはコンドライトよりも有意に高いことになり、マントルのOs同位体進化モデルの再構築が必要となる。