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[SGC38-P03] 第一原理計算によるWとHfの分配とその結果としての182W同位体進化
キーワード:タングステン同位体、タングステンとハフニウムの分配、核-マントル相互作用、第一原理計算
182W同位体は地球のコアの情報を運んでくる数少ない化学的情報だと考えられている。そのため,核-マントル境界を起源とする海洋島玄武岩や洪水玄武岩等に,核-マントル相互作用の痕跡として182W同位体の異常が見られると期待されて,分析技術の開発が行われてきた。
182Wに異常が生じるのは,HfとWが地球初期のマグマオーシャンにおいて,核-マントル間での分配の違いによるものである。Hfは親石, Wは親鉄元素であるため,コア形成時には,Wは金属核に分配され,Hfはケイ酸塩に分配すると考えられている。この分別が182Hfの短い半減期(890万年: Vockenhuber et al., 2004)で消滅する前に起きることによって182Wの同位体変動が生じる。その結果,初期マントルは高いμ182W値(現在の上部マントルの値との差をppmで示したもの),金属核はμ182Wが低くなる。核形成の後しばらくたって,いわゆる隕石の化学組成をした,つまり,182Wの低いlate veneer物質によって,初期マントルのW同位体比は下がり,現在の上部マントルの値になる。初期のマントル由来岩であるコマチアイトなどでは,μ182W値は+10~+20ppmの正の値であり(Mei, et al., 2019など),late veneer前のマントルの値を示す。一方,ハワイやサモアなど現世の最下部マントルを起源とする海洋島玄武岩は,負のμ182Wを示している岩石も報告され(Mundl et al.2017; Rizo et al.2019など),これらはコア物質が含まれている証拠というモデルが提案されている。
このモデルを検証し,地球深部の182Wの進化を理解するためには,高圧下でのHfとWの挙動と隕石衝突などの地球外物質の影響に注目する必要がある。一方,特にWのような微量親鉄元素は岩石中でナゲットを作りやすく,均質な実験生成物を作成することは困難であり,実験によって分配を制約するのは容易ではない。そこで,本研究では室内実験では困難な高温高圧条件下での珪酸塩メルトと溶融鉄の間のHf-Wの分配を,第一原理自由エネルギー計算を用いて調べ,昨年の年会ではHfO2,WO2の分配に関して報告した。マントル中のHfはHfO3として存在するという指摘も受けたことから,今回さらにHfO3の分配計算も行った。また,鉄が珪酸塩と混合した場合とその逆の場合に分配係数が変化するかどうかも計算した。
その結果,いずれの場合もWは親鉄性を,Hfは親石性を維持することが確認された。HfO3の場合,HfO2の場合と比べて,若干親石性が薄れたが,なお珪酸塩に分配される結果となった。WとHfの分配係数は珪酸塩メルトにFeを添加しても大きな影響を受けなかったが,FeにOを混合するとWとHfの分配係数はそれぞれ減少し,増加した。今回の結果において,最も重要なことは,いずれの場合も,計算条件下ではWは親鉄性,Hfは親石性を維持したことであり,上記のモデルと整合的であることである。さらに,Hf,Wの構造を計算すると,溶融鉄中のW-Fe間とW-Hf間がともにFe-Fe間の距離と似通っていることから,どちらも溶融鉄中の鉄のサイトを置き換えていることを示唆している。HfとWの鉄への分配挙動が大きく異なるのに対して,入っているサイトは同じであることは興味深い。
今後,計算結果を基に,各時代の岩石のμ182W値の分析結果と,照らし合わせて,W同位体比の進化を明らかにしていくことが必要である。
182Wに異常が生じるのは,HfとWが地球初期のマグマオーシャンにおいて,核-マントル間での分配の違いによるものである。Hfは親石, Wは親鉄元素であるため,コア形成時には,Wは金属核に分配され,Hfはケイ酸塩に分配すると考えられている。この分別が182Hfの短い半減期(890万年: Vockenhuber et al., 2004)で消滅する前に起きることによって182Wの同位体変動が生じる。その結果,初期マントルは高いμ182W値(現在の上部マントルの値との差をppmで示したもの),金属核はμ182Wが低くなる。核形成の後しばらくたって,いわゆる隕石の化学組成をした,つまり,182Wの低いlate veneer物質によって,初期マントルのW同位体比は下がり,現在の上部マントルの値になる。初期のマントル由来岩であるコマチアイトなどでは,μ182W値は+10~+20ppmの正の値であり(Mei, et al., 2019など),late veneer前のマントルの値を示す。一方,ハワイやサモアなど現世の最下部マントルを起源とする海洋島玄武岩は,負のμ182Wを示している岩石も報告され(Mundl et al.2017; Rizo et al.2019など),これらはコア物質が含まれている証拠というモデルが提案されている。
このモデルを検証し,地球深部の182Wの進化を理解するためには,高圧下でのHfとWの挙動と隕石衝突などの地球外物質の影響に注目する必要がある。一方,特にWのような微量親鉄元素は岩石中でナゲットを作りやすく,均質な実験生成物を作成することは困難であり,実験によって分配を制約するのは容易ではない。そこで,本研究では室内実験では困難な高温高圧条件下での珪酸塩メルトと溶融鉄の間のHf-Wの分配を,第一原理自由エネルギー計算を用いて調べ,昨年の年会ではHfO2,WO2の分配に関して報告した。マントル中のHfはHfO3として存在するという指摘も受けたことから,今回さらにHfO3の分配計算も行った。また,鉄が珪酸塩と混合した場合とその逆の場合に分配係数が変化するかどうかも計算した。
その結果,いずれの場合もWは親鉄性を,Hfは親石性を維持することが確認された。HfO3の場合,HfO2の場合と比べて,若干親石性が薄れたが,なお珪酸塩に分配される結果となった。WとHfの分配係数は珪酸塩メルトにFeを添加しても大きな影響を受けなかったが,FeにOを混合するとWとHfの分配係数はそれぞれ減少し,増加した。今回の結果において,最も重要なことは,いずれの場合も,計算条件下ではWは親鉄性,Hfは親石性を維持したことであり,上記のモデルと整合的であることである。さらに,Hf,Wの構造を計算すると,溶融鉄中のW-Fe間とW-Hf間がともにFe-Fe間の距離と似通っていることから,どちらも溶融鉄中の鉄のサイトを置き換えていることを示唆している。HfとWの鉄への分配挙動が大きく異なるのに対して,入っているサイトは同じであることは興味深い。
今後,計算結果を基に,各時代の岩石のμ182W値の分析結果と,照らし合わせて,W同位体比の進化を明らかにしていくことが必要である。