日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学・GGOS

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)

17:15 〜 19:15

[SGD02-P06] 楕円体基準水深測量の導入に向けた日本沿岸における平均水面の楕円体高分布の算出

*南部 正裕1、瀬尾 徳常1土屋 主税1、林王 弘道1 (1.海上保安庁海洋情報部)

キーワード:楕円体基準水深測量、平均水面、水路測量、衛星測位、ジオイド、海面高度

海上保安庁海洋情報部では国土交通省港湾局とともに、新しい水深測量手法である楕円体基準水深測量の導入を進めている。楕円体基準水深測量の導入には、実際の海面の高さを反映した地球楕円体上の水深基準面の作成が必要となる。本研究では、地球楕円体上の水深基準面を作成するために必要な、全国各地の験潮所における平均水面の楕円体高を求めた。
長期間の潮汐観測から得られる平均水面の高さは、海流や長期的な気象の影響により、東京湾平均海面(T.P.)とは基本的には一致しない。寄高・花輪(2020)は、水準測量成果を用いて日本沿岸域の平均水面の標高(T.P.からの高さ)を報告した。この報告によると、例えば本州北西岸では25cm程度の標高となり、本州東岸の平均水面の標高と約20cmもの差がある。標高は、楕円体高とジオイド(T.P.の等重力ポテンシャル面)との差分とみなすことができる。約20cmの平均水面の標高の違いは、水深測量のための基準面の作成において無視できない大きさである。そのため、平均水面の楕円体高の水平分布を算出するには、等重力ポテンシャル面であるジオイドに対し、海域ごとの差分を加える必要がある。
しかし、寄高・花輪(2020)や磯田・山岡(1991)をはじめ、水準測量による測地成果を用いてジオイド上の平均水面の高さを算出する方法では、日本水準原点から遠くなるほど誤差が累積するという問題や、複雑な地盤変動量補正が必要になるなどの課題もある。
本研究では、測量日の追跡が可能な衛星測位を主体とした方法を採用し、測量日を起点とした簡易的な地盤変動量補正を施すことで、日本沿岸の平均水面の楕円体高を算出した。まず、全国の験潮所付近で6時間以上実施したGNSSスタティック観測及び験潮場に設置されたGNSS連続観測点により、験潮所で観測された5か年平均水面を楕円体基準に変換した。続いてGNSSスタティック観測の場合は、近傍電子基準点F5解の鉛直変化量で見積もったGNSS測量日から平均水面算出期間までの地盤変動量により補正した。その結果得られた平均水面の楕円体高分布は、国土地理院のジオイドモデル「日本のジオイド」ver2.2からの高さに変換すると、日本海側で25cm程度、本州東岸で0cm程度となり、寄高・花輪(2020)で報告された日本沿岸の特徴的な平均水面の高さ分布と整合的だった。一方で本州南岸から九州東岸にかけては、寄高・花輪(2020)で報告された算出値よりも数cmから10cm程度大きな値が見られた。これは、平均水面算出期間における黒潮の流路の違いに起因すると考えられる。
電子基準点のF5解を用いた単純な地盤変動の補正については、平均水面の楕円体高を算出するのに有効であることがわかった。GNSSスタティック観測では、マルチパス等の誤差により、観測値に数cm程度のばらつきが見られた。一方で、験潮場に設置されたGNSS連続観測点ではこのようなばらつきは長期間の観測により抑えられた。
今後、精度を上げる方法として、GNSS観測の長時間化や地盤変動量補正の精緻化が考えられる。地殻変動が大きい海域では、近傍電子基準点のF5解のみで験潮所の地盤変動量を代表することが難しいことから、複数地点のF5解を用いた地盤変動の空間補間を検討する。
また、ジオイド上の平均水面の高さには海域差があるため、面的な水深基準面を作成するためには外洋域や内湾域で水平勾配を考慮する必要がある。外洋域においては、自律型海洋観測装置(AOV)やGPSブイによる平均水面の観測に加え、衛星海面高度計を同化した流体力学モデルの利用を検討している。流体力学モデルは、ジオイド上の平均水面の高さ勾配が大きいことが予測される外洋域はもちろん、それと比べると小さいが勾配を無視できない瀬戸内海や東京湾等の内湾域での活用も有効だと考えられる。
さらに、国土地理院は令和7年4月1日より全国の標高成果を、衛星測位を基盤とする測地成果2024に改定する。測地成果2024における水準点の標高成果は、水準測量による誤差の累積や地盤変動の影響が抑えられる。測地成果2024における水準点の標高成果と、水準点から験潮所付属標までの水準測量と組み合わせることにより、全国の験潮所で誤差の小さい平均水面の標高や楕円体高が得られることが期待される。