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[SGL22-P05] 北西太平洋地域における上部アプチアン-下部アルビアン階のオスミウム同位体比層序と海洋無酸素事変相当層準の特定
キーワード:蝦夷層群、アプチアン、アルビアン、白亜紀
白亜紀は地球史において最も温暖であった時代として知られている.特にアプチアンからアルビアンにかけてのおよそ121Maから100Maの期間は,海洋地殻の生産量が白亜紀最大を示し,赤道大西洋ゲートウェイも開通するなど,テクトニクスが最も活発だった時期に当たる.一方,浮遊性有孔虫において白亜紀最大のターンオーバーが起きるなど,急激な環境・生態系の変化があったことも示唆されている.この時代の環境変動について詳細に検討することは,地球温暖化が急激に進行する現代において,炭素循環に対する地球の応答を理解し,今後の影響を評価・予測するために重要である.
後期アプチアンから前期アルビアンにかけては,複数回の海洋無酸素事変(Ocean Anoxic Events: OAEs)が起きたことが知られている.このうち,Fallot Eventはおよそ117Maに南東フランスのMarnes Bleues層に挟在する6枚の黒色頁岩を,OAE1bはおよそ114.5Maから110Maの間に頻繁に黒色頁岩(Vocontian Basinでは,このうち主要な黒色頁岩に対して下位からJacob,Kilian,Paquier,Leenhardtと名付けられている)を堆積させたイベントをそれぞれ指す.Fallot Eventは火成活動もしくは熱水活動,OAE1bは火成活動やミランコビッチ・サイクルとの関連が指摘されているが,OAE1aやOAE2と比較すると研究例が少なく,その規模や因果関係の解明には更なる研究が待たれる.これらはいずれも下部白亜系が連続的に露出するテチス海域において詳細に検討されてきたが,当時最大の海洋であった太平洋のうち,蝦夷層群に記載されている北西太平洋の前古海盆堆積物においては示準化石の産出が乏しく,Fallot EventやOAE1bに関してはまだ層準が特定されていなかった.本研究では,オスミウム同位体比層序と炭素同位体比層序をもとに,北西太平洋において初となるFallot EventとOAE1bに相当する層準を認定した.
北海道中軸に位置する小屋の沢層では,アプチアン-アルビアン階に相当する連続した地層が露出する.この地層は蝦夷層群下部にあたり,タービダイト砂岩と半遠洋性の泥岩を主体とする.また厚いオリストストロームを挟むほか,しばしば珪長質凝灰岩を挟在する.下位からシューパロ川層,丸山層,日陰の沢層と呼ばれている.シューパロ川層は三つの部層からなり,下位から礼振峰砂岩部層,崕山オリストストローム部層,奥境の沢砂岩泥岩部層と呼ばれる.産出した浮遊性有孔虫化石に基づくと,堆積年代については,礼振峰砂岩部層はアプチアンが示唆され,崕山オリストストローム部層から奥境の沢砂岩泥岩部層にかけてはアルビアンを示唆される.このセクションにおいて,全層厚650 mの区間から数mから数十m間隔でオスミウム同位体比を測定した結果,シューパロ川層下部と上部の2層準で,0.1程度の顕著な同位体比の低下を確認した.下位側のピークは礼振峰砂岩部層下部に相当し,同層準では炭素同位体比も約1‰の負のシフトを示した.この層準は上部アプチアンにあたることから,Fallot OAEを反映したものと推測される.オスミウム・炭素同位体比にみられる特徴は,テチス海域の先行研究におけるFallot OAEと同様の傾向であった.一方,上位側で見られたもう一つのオスミウム同位体比の低下は,アルビアン下部の奥境の沢砂岩泥岩部層の最下部に相当する.同層準では放散虫のターンオーバーが報告されているほか,近傍層準の凝灰岩のジルコンU-Pb放射年代が110Maを示す.年代,微化石群集,オスミウム・炭素同位体比のこれらの特徴はイタリアのセクションにおけるOAE1b区間のLeenhardt層準と類似する.一方,Leenhardt以外のOAE1bのうち,JacobとKillian層準については,イタリアのセクションでオスミウム同位体比の低下が報告されているが,本研究においてはこのような低下を示す層準が現時点ではまだ見つかっていない.この理由について2つの可能性が考えられ,1つは,オスミウム同位体比層序の解像度が十分でないために,これらの短期間(4万年以下)の変化がまだ捉えられていないためで,もう一つは,崕山オリストストローム部層の巨大地すべり岩体の堆積に伴ってJacob~Paquier相当層準が削剥したことに起因する.これらを明らかにするためには,崕山オリストストローム部層の上下においてより詳細なオスミウム同位体比層序の検討が必要である.
後期アプチアンから前期アルビアンにかけては,複数回の海洋無酸素事変(Ocean Anoxic Events: OAEs)が起きたことが知られている.このうち,Fallot Eventはおよそ117Maに南東フランスのMarnes Bleues層に挟在する6枚の黒色頁岩を,OAE1bはおよそ114.5Maから110Maの間に頻繁に黒色頁岩(Vocontian Basinでは,このうち主要な黒色頁岩に対して下位からJacob,Kilian,Paquier,Leenhardtと名付けられている)を堆積させたイベントをそれぞれ指す.Fallot Eventは火成活動もしくは熱水活動,OAE1bは火成活動やミランコビッチ・サイクルとの関連が指摘されているが,OAE1aやOAE2と比較すると研究例が少なく,その規模や因果関係の解明には更なる研究が待たれる.これらはいずれも下部白亜系が連続的に露出するテチス海域において詳細に検討されてきたが,当時最大の海洋であった太平洋のうち,蝦夷層群に記載されている北西太平洋の前古海盆堆積物においては示準化石の産出が乏しく,Fallot EventやOAE1bに関してはまだ層準が特定されていなかった.本研究では,オスミウム同位体比層序と炭素同位体比層序をもとに,北西太平洋において初となるFallot EventとOAE1bに相当する層準を認定した.
北海道中軸に位置する小屋の沢層では,アプチアン-アルビアン階に相当する連続した地層が露出する.この地層は蝦夷層群下部にあたり,タービダイト砂岩と半遠洋性の泥岩を主体とする.また厚いオリストストロームを挟むほか,しばしば珪長質凝灰岩を挟在する.下位からシューパロ川層,丸山層,日陰の沢層と呼ばれている.シューパロ川層は三つの部層からなり,下位から礼振峰砂岩部層,崕山オリストストローム部層,奥境の沢砂岩泥岩部層と呼ばれる.産出した浮遊性有孔虫化石に基づくと,堆積年代については,礼振峰砂岩部層はアプチアンが示唆され,崕山オリストストローム部層から奥境の沢砂岩泥岩部層にかけてはアルビアンを示唆される.このセクションにおいて,全層厚650 mの区間から数mから数十m間隔でオスミウム同位体比を測定した結果,シューパロ川層下部と上部の2層準で,0.1程度の顕著な同位体比の低下を確認した.下位側のピークは礼振峰砂岩部層下部に相当し,同層準では炭素同位体比も約1‰の負のシフトを示した.この層準は上部アプチアンにあたることから,Fallot OAEを反映したものと推測される.オスミウム・炭素同位体比にみられる特徴は,テチス海域の先行研究におけるFallot OAEと同様の傾向であった.一方,上位側で見られたもう一つのオスミウム同位体比の低下は,アルビアン下部の奥境の沢砂岩泥岩部層の最下部に相当する.同層準では放散虫のターンオーバーが報告されているほか,近傍層準の凝灰岩のジルコンU-Pb放射年代が110Maを示す.年代,微化石群集,オスミウム・炭素同位体比のこれらの特徴はイタリアのセクションにおけるOAE1b区間のLeenhardt層準と類似する.一方,Leenhardt以外のOAE1bのうち,JacobとKillian層準については,イタリアのセクションでオスミウム同位体比の低下が報告されているが,本研究においてはこのような低下を示す層準が現時点ではまだ見つかっていない.この理由について2つの可能性が考えられ,1つは,オスミウム同位体比層序の解像度が十分でないために,これらの短期間(4万年以下)の変化がまだ捉えられていないためで,もう一つは,崕山オリストストローム部層の巨大地すべり岩体の堆積に伴ってJacob~Paquier相当層準が削剥したことに起因する.これらを明らかにするためには,崕山オリストストローム部層の上下においてより詳細なオスミウム同位体比層序の検討が必要である.