日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP29] 鉱物の物理化学

2025年5月28日(水) 09:00 〜 10:30 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:近藤 望(岡山大学惑星物質研究所)、髙木 壮大(Korea University)、萩原 雄貴(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:近藤 望(岡山大学惑星物質研究所)、萩原 雄貴(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

09:45 〜 10:00

[SMP29-03] 下部マントル条件下で安定なKAlSi3O8ホーランダイト相の高圧挙動の分光学的研究

*普家  小百合1飯塚 理子1、中野 智志2、後藤 弘匡3 (1.早稲田大学、2.物質・材料研究機構、3.東京大学物性研究所)


キーワード:ホーランダイト相、ラマン分光、相転移、圧力媒体

KAlSi3O8ホーランダイト相は、地球のマントルに存在するカリウムに富む長石(KAlSi3O8)の高圧多形であり[1,2]、I相とII相の2つの多形が存在する。正方晶系(空間群I4/m)のI相は10-20 GPaで安定であり[3]、二次相転移を起こして単斜晶系(I2/m)のII相に変化する。このII相は、下部マントル最下部の条件下まで安定に存在することが知られている[2-4]。I, II相ともに、結晶構造中に稜共有した(Al,Si)O6八面体の二重鎖によって形成された大きな正方形のトンネルを持ち、Kはトンネル内に存在する。この特徴的なトンネル構造から、イオン半径の大きな不適合元素(LILE)のホスト鉱物としての役割を担っていると考えられている[2,3]。Kホーランダイト相の圧縮挙動については、高圧下その場X線回折による数多くの研究報告がある一方で、ラマンスペクトルでは明確に観察されていなかった。Liu et al. 2009 [5]では、II相として新たに出現したとされるラマンバンドを報告しているが、圧力媒体として水を使用しており相転移圧力よりも低い。そこで本研究では、ダイヤモンドアンビルセルを用いて室温下51 GPaまでの高圧実験を行い、Kホーランダイト相のラマンスペクトルの圧力応答を調べた。
まず、東京大学物性研究所の700トンマルチアンビルプレスを用いてKホーランダイトI相の高温高圧合成を行った。16 GPa, 1500ºCの条件で2時間保持し、回収した。これを出発物質として、さまざまな圧力媒体(水、メタノール・エタノール4:1混合溶液、アルゴン、ヘリウム)とともにDACの試料室へ充填し、Kホーランダイト相の圧力応答に対する静水圧性の影響を明らかにした。希ガス圧媒体は、物質・材料研究機構にて、高圧にしたガスを充填した。トンネル構造への希ガス取り込みの可能性を追究するために、KEK-PF, BL18Cにて放射光X線を用いた高圧下でのX線回折測定も行った。
ラマンバンドの圧力依存性はいずれの圧媒体でも直線的であったが、相転移の前後で傾きが変化した。とりわけ、B1gモードに由来するラマンシフトは、静水圧性の良い条件では相転移圧力前後で傾きが顕著に変化した。この B1gモードは、I相−II相の相転移によりトンネル構造が歪む方向に敏感な振動であり、二次相転移におけるラマンスペクトルの変化を本研究で初めて捉えたと考えられる。一方で、X線回折測定の結果からは、圧力媒体に関係なく格子体積の変化に有意な差は見られなかった。したがって、下部マントルにおいて、Kホーランダイト相には多量の LILE または希ガスが取り込まれていないことが示唆される。

[1] Irifune et al. (1994) Earth Planet. Sci. Lett. 126, 351–368
[2] Nishiyama et al. (2005) Phys. Chem. Minerals. 32, 627–637
[3] Kawai and Tsuchiya (2013) Am. Min. 98, 207–218
[4] Hirao et al. (2008) Phys. Earth Planet. Inter. 166, 97–104
[5] Liu et al. (2009) Phys. Chem. Minerals. 36, 143–149