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[SSS09-03] P波方位異方性媒質における3次元波線追跡と日本沈み込み帯のトモグラフィーへの影響

キーワード:地震波異方性、地震波不連続面、地震波トモグラフィー、波動伝播、沈み込み帯プロセス
地震波トモグラフィーは,地球内部の3次元構造を調べるうえで最も強力な地球物理学的手法のひとつである(例えば,Zhao, 2015).地震波異方性とは,地震波の伝播方向や偏光方向によって地震波速度が変化する現象であり,これは過去や現在における地球内部構造や変形,進化の過程,そしてマントル対流といったダイナミックスを反映している(例えば,Zhao et al., 2023).地球内部の弾性的性質は異方的であるため(例えば,Karato et al., 2008),弾性波(地震波)の伝播もまた異方的である.一方で,現在までのところ,多くの研究では等方性媒質における3次元波線追跡法が用いられ,波線経路やトモグラフィーへの異方性の影響を調べた研究はほとんど存在しない.
本研究では,P波方位異方性(azimuthal anisotropic, AAN)媒質において3次元の波線経路と走時を計算する3次元AAN波線追跡法を新たに開発した(Tsunashima et al., 2025).ここでは六方対称性をもった異方性媒質を仮定し,異方性の対称軸と位相速度方向,そして群速度方向が同一平面内に存在する性質を利用した.その上で,pseudo-bending法とSnellの法則を組み合わせた3次元波線追跡法(Zhao et al., 1992; Gou et al., 2018)をAAN媒質用に改良した.この新しい波線追跡コードの正確性を評価するために,単純な人工モデルと実際の東日本沈み込み帯の3次元P波AANモデル(Jia & Zhao, 2023)において,等方性波線とAAN波線を計算して比較した.さらに,日本沈み込み帯を対象として,AANトモグラフィー(Wang & Zhao, 2008, 2013)への影響も調べた.解析に用いたデータは,日本およびその周辺で発生した近地地震のP波到達時刻であり,気象庁一元化震源カタログから選択した.これらはHi-netおよびS-netを含む地震観測点で記録されたものである.解析にはコンラッド面とモホ面,そして沈み込む太平洋スラブ上面の形状(Zhao et al., 2022)も考慮されている.
人工モデルと実際のモデルにおける新しい波線追跡コードの評価によると,それぞれのモデルにおけるAAN波線は妥当な方向に屈曲しFermatの原理も満たすことがわかった.これはAAN媒質の仮定に妥当性があるとき,波線追跡計算に用いられた理論と近似は適切であることを意味する.このコードを用いたトモグラフィーの結果によると,火山フロントと背弧領域に沿ったマントルウェッジ内(深さ40 km以深)において,低速度異常と海溝直交方向の速い速度の方向(fast-velocity direction, FVD),そして北海道と関東地方の地下約80 kmに扇型のFVDが現れることがわかった.高速度の太平洋スラブ内には,特にスラブが横方向に屈曲する領域で海溝平行方向のFVDが現れた.これらの特徴は先行研究(e.g., Jia & Zhao, 2023)と調和的である.等方性波線追跡コードとAAN波線追跡コードのそれぞれで求めた二つのモデルを比較したところ,3次元等方性P波速度(Vp)構造とFVD分布の両方においてこの二つのモデルは非常によく似ていた.この二つのモデルにおけるVpとFVDの差はそれぞれ1%以下とほぼ0度であり,これは現在の分解能(30-50 km)においてAANトモグラフィーへの3次元AAN波線追跡の影響は小さいことを意味する.
謝辞:
本研究では,気象庁一元化情報を用いています.一元化データには,北海道大学,弘前大学,東北大学,東京大学,名古屋大学,京都大学,高知大学,九州大学,鹿児島大学,防災科学技術研究所,産業技術総合研究所,国土地理院,青森県,東京都,静岡県,神奈川県温泉地学研究所,横浜市,海洋研究開発機構および気象庁により提供された地震波形データが使用されています.
本研究では,P波方位異方性(azimuthal anisotropic, AAN)媒質において3次元の波線経路と走時を計算する3次元AAN波線追跡法を新たに開発した(Tsunashima et al., 2025).ここでは六方対称性をもった異方性媒質を仮定し,異方性の対称軸と位相速度方向,そして群速度方向が同一平面内に存在する性質を利用した.その上で,pseudo-bending法とSnellの法則を組み合わせた3次元波線追跡法(Zhao et al., 1992; Gou et al., 2018)をAAN媒質用に改良した.この新しい波線追跡コードの正確性を評価するために,単純な人工モデルと実際の東日本沈み込み帯の3次元P波AANモデル(Jia & Zhao, 2023)において,等方性波線とAAN波線を計算して比較した.さらに,日本沈み込み帯を対象として,AANトモグラフィー(Wang & Zhao, 2008, 2013)への影響も調べた.解析に用いたデータは,日本およびその周辺で発生した近地地震のP波到達時刻であり,気象庁一元化震源カタログから選択した.これらはHi-netおよびS-netを含む地震観測点で記録されたものである.解析にはコンラッド面とモホ面,そして沈み込む太平洋スラブ上面の形状(Zhao et al., 2022)も考慮されている.
人工モデルと実際のモデルにおける新しい波線追跡コードの評価によると,それぞれのモデルにおけるAAN波線は妥当な方向に屈曲しFermatの原理も満たすことがわかった.これはAAN媒質の仮定に妥当性があるとき,波線追跡計算に用いられた理論と近似は適切であることを意味する.このコードを用いたトモグラフィーの結果によると,火山フロントと背弧領域に沿ったマントルウェッジ内(深さ40 km以深)において,低速度異常と海溝直交方向の速い速度の方向(fast-velocity direction, FVD),そして北海道と関東地方の地下約80 kmに扇型のFVDが現れることがわかった.高速度の太平洋スラブ内には,特にスラブが横方向に屈曲する領域で海溝平行方向のFVDが現れた.これらの特徴は先行研究(e.g., Jia & Zhao, 2023)と調和的である.等方性波線追跡コードとAAN波線追跡コードのそれぞれで求めた二つのモデルを比較したところ,3次元等方性P波速度(Vp)構造とFVD分布の両方においてこの二つのモデルは非常によく似ていた.この二つのモデルにおけるVpとFVDの差はそれぞれ1%以下とほぼ0度であり,これは現在の分解能(30-50 km)においてAANトモグラフィーへの3次元AAN波線追跡の影響は小さいことを意味する.
謝辞:
本研究では,気象庁一元化情報を用いています.一元化データには,北海道大学,弘前大学,東北大学,東京大学,名古屋大学,京都大学,高知大学,九州大学,鹿児島大学,防災科学技術研究所,産業技術総合研究所,国土地理院,青森県,東京都,静岡県,神奈川県温泉地学研究所,横浜市,海洋研究開発機構および気象庁により提供された地震波形データが使用されています.
