日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 地震波伝播:理論と応用

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:竹尾 明子(東京大学地震研究所)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)、二宮 啓(産業技術総合研究所)


17:15 〜 19:15

[SSS09-P08] 東北日本背孤側におけるS波エンベロープ拡大推定の安定性

*楠美 紀公1前田 拓人1平野 史朗1 (1.弘前大学大学院理工学研究科)


キーワード:地震波散乱、不均質構造、エンベロープ拡大、背孤側、東北日本

高周波の近地地震波形は直達波だけのインパルス的なものになるとは限らず、パルスが崩れた紡錘形を呈した地震波がしばしば観測される。この現象は、主に地球内部の短波長不均質構造に起因する地震波散乱によるものである。近年の研究により、地震波包絡線のS波領域拡大(以下、S波エンベロープ拡大)が、短波長不均質構造を特徴づけることが知られている。これまでの東北日本におけるS波エンベロープ拡大の解析は、もっぱら太平洋プレートの沈み込み帯で発生した地震が対象とされてきたが、東北日本の日本海下浅部で発生した大陸地殻内地震についても、顕著にパルスが崩れた波形が観測されることがわかってきた。楠美・他(2024)はこのような東北日本の日本海下浅部で発生した地震について、S波の到達時刻からエンベロープ波形のS 波領域におけるピーク時刻までのタイムラグ(ピーク遅延時間)を用いてS波エンベロープ拡大の地域性を調査した。しかし、ピーク遅延時間の推定には直達波走時の検知基準による大きな不確定性を伴うことが、検測記録・理論走時そしてAIを用いた走時検知の相互比較からわかってきた。そこで、本研究はエンベロープ波形の時間積分に基づく異なる指標を導入し、再解析をした。

地震波解析では、気象庁一元化震源カタログと、防災科学技術研究所Hi-net地震観測網の速度波形データを使用した。東北日本の日本海下浅部で発生した、マグニチュード3.0から5.5の地震について、100−250 kmの震源距離にある観測波形を用いた。2−4、4−8、8−16、16−32 Hzの4つの周波数帯について、それぞれ平滑化されたエンベロープ波形を作成した。先行研究に倣い、エンベロープ波形を時間積分したのち、そのトレースの最大値の5%と95%となる時間差(90%信号継続時間)を、S波エンベロープ拡大の指標とした。これについて、震源距離に対する回帰直線を計算し、その対数偏差を求めた。最後に、対象領域を10 km四方のグリッドに分割し、波線経路ごとに対数偏差の値を割り当てた。そして、グリッド内で第一四分位数を計算して2次元の空間分布に反映させることで、S波エンベロープ拡大の地域性を調べた。

解析の結果、90%信号継続時間は震源距離に依存することが確認された。また、回帰直線からの対数偏差のばらつきを標準偏差により確認したところ、全周波数帯でピーク遅延時間を適用した場合に比べて顕著に小さくなった。90%信号継続時間を用いたことで、より安定した推定が可能になりつつあると考えられる。

対数偏差の2次元の空間分布は、奥羽山脈に分布する火山近傍やその前孤側などで相対的に大きな値を示し、特に高周波側でその傾向が強かった。このことは、ピーク遅延時間の解析でも確認されていた。これらの地域では、地震波散乱を引き起こす短波長不均質構造が存在していると推測される。一方で、秋田県と山形県の日本海沖や青森県北部などでは比較的小さな値を示した。特に、前者についてはこれまでの傾向と異なった。この周辺で発生した地震は、直達波走時の検出結果がゆらいでいるものが複数あった。したがって、新たな指標を導入したことにより、不確定性の解消に寄与した可能性がある。