日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2025年5月29日(木) 09:00 〜 10:30 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:柴田 律也(防災科学技術研究所)、澤井 みち代(千葉大学)、奥田 花也(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、津田 健一(清水建設 株式会社 技術研究所)、座長:柴田 律也(防災科学技術研究所)、奥田 花也(海洋研究開発機構 高知コア研究所)

10:00 〜 10:15

[SSS10-04] 震源メカニズムの時間変化に着目した震源過程の複雑性を評価するプロキシの検討

*井上 尚滉1八木 勇治1奥脇 亮1山口 諒1 (1.筑波大学)


キーワード:震源過程モデル、インバージョン法、震源メカニズムの時間変化

現地調査や地震波解析によって,断層形状やすべり方向の変化する地震が数多く報告されている.例えば,2016年Kaikoura地震 (MW 7.8) は形状の異なる複数の横ずれ断層と逆断層の破壊が,また2007年Martinique地震 (MW 7.4) はダウンディップ引張による破壊と横ずれ断層破壊の混在が指摘されている.ひとつの地震に対して震源メカニズム解の時空間変化の程度を示す指標としてnon-ダブルカップル (DC) 成分の比率が度々用いられる.しかしながら,複数の断層が連動していても各サブイベントのB軸が類似している場合はnon-DC比率は小さな値となるため,non-DC比率の大きさは断層形状やすべり方向の時間変化に代表される震源過程の複雑さを表現できない場合が存在する.したがって,本研究では異なる地震間で断層連動等の複雑性を評価するために,地震時の震源メカニズムの時間変化を反映する指標を検討する.  
近年提案されたポテンシー密度テンソルインバージョン (PDTI) は,断層すべりを剛性率でモーメント密度テンソルを割ったポテンシー密度テンソルとしてモデル平面に投影することで,断層形状の情報を含む震源過程を推定することができる.ある時間のポテンシーレート密度テンソル時空間分布を空間積分することによってモーメントレートテンソルが得られる.このモーメントレートテンソルは各時間の断層運動を代表し,その固有値から各時間のモーメントレート (モーメントレート関数) を推定することができる.一方で,地震モーメントはポテンシーレート密度テンソル時空間分布を時間と空間で積分したモーメントテンソルの固有値から推定することができる.震源メカニズム解が時間変化するような複雑な地震が発生した場合,モーメントレート関数を時間積分した値と,地震モーメントの値は乖離することになる.これを踏まえて本研究は,モーメントレートの時間積分を地震モーメントで規格化した値 (γ) を震源過程の複雑性を表現する指標と定義し,実データを用いて得られたPDTIモデルを用いてその有効性を検討する.
解析対象には査読付き学術論文として出版された22の地震のPDTI解析結果に加え,GCMT解により大きなnon-DC比率が報告されている6の地震のPDTI解析を行った結果を新たに加え,計28の地震の震源過程モデルに対しγを計算した.その結果多くの地震 (20個) はγが1.13以下となり,残りの8の地震はγが1.13<γ<1.55の範囲に求まった.γとnon-DC比率に有意な相関は存在せず,non-DC比率が小さな地震においても高いγの値が得られるケースが存在した.non-DC比率が20 %以下でγの値が大きくなった地震は2002年Denali地震 (γ=1.135),2021年Haiti地震 (γ=1.348),2014年Thailand地震 (γ=1.306) であり,前者2つの地震は逆断層と横ずれ断層が連動したことが知られている.一方2014年Thailand地震(MW 6.2)は、地震規模が小さいことが原因でデータの質と量が十分ではなく,破壊終盤において周辺テクトニクスに相容れない逆すべりが求まり,その結果として大きなγが推定されている. γの有効利用には,破壊終盤における解の不安定化を避けることが重要と言える.γが1.13を超える地震は,横ずれ断層と逆断層が連動している2000年Sulawesi地震 (γ=1.181),2007年Martinique地震 (γ=1.228) ,2016年Kaikoura地震 (γ=1.263),断層が湾曲している2013年Balochistan地震 (γ=1.170) ,スラブ内で正断層,横ずれ断層,逆断層が連動した2021年East Cape地震 (γ=1.547) が挙げられる.一方で複数の逆断層が連動した令和6年能登半島地震 (γ=1.099)と,横ずれ断層が連動した2020年Caribbean地震 (γ=1.040) は比較的小さな γ が求まった.複数断層が連動破壊した場合でも,断層方向が類似する場合,γは適切に小さくなる傾向が確認された.以上の検討によりγは,non-DC比率に比して地震時の断層すべりの多様性を測定する指標として有効であると考えられる.