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[SSS10-P07] 滑り・グリーン関数・断層形状の同時推定の定式化と解の解析的表現
キーワード:滑り・グリーン関数・断層形状の同時推定
滑りインバージョンとは、断層の変位不連続境界条件のもと媒質の運動を記述する、転位問題の逆解析である。断層の形状及び単位断層すべりへの変位応答の解(グリーン関数)を仮定して断層の滑りを計算するのが現行標準 (Yabuki & Matsu'ura, 1992; Ide, 2007)だが、モデルの仮定に由来する解のバイアスに悩まされ (Dutta et al., 2021)、推定結果の二次的活用の際の障害になる (Agata et al., 2021)。この滑りインバージョンのモデルバイアスは、観測方程式の積分核(逆問題のグリーン関数)の誤差として包括的に論じられる(Yagi & Fukahata, 2011)。Yagi & Fukahata (2011)はグリーン関数もまた未知量である点を指摘してグリーン関数の不確実性からの誤差伝播が滑り推定の主要誤差要因となることを明らかにし、Agata et al. (2021)は滑りとグリーン関数の同時推定を論じた。
但し、ここでいう逆問題のグリーン関数の誤差には、転位論の順問題でいうグリーン関数、すなわち力源に対する媒質応答を表す順問題の基本解、の誤差(Hori et al., 2021)に加えて、仮定された断層形状の誤差(Matsu'ura, 1977)が合算されている点は注意を要する。通常のインバージョン解析では、断層形状はモデルを規定する超パラメターの位置付け(Fukahata & Wright, 2008)にあり、3次元的形状推定は度々決定精度に難があった (Jolivet et al., 2014)。この問題に、Shimizu et al. (2021)は、仮定した断層形状で配向が限定される滑りの代わりに非弾性歪(ポテンシー)を推定する(Kikuchi & Kanamori, 1991)ことで、ポテンシーと整合的な面として、断層形状をポテンシーと同程度の精度で推定できることを示した。すなわち、断層変形の生じる地殻変位の観測者から見たとき、滑りと法線(形状)はダブルカップル震源を表現する同等の情報である。しかし、Shimizu et al. (2021)では断層形状はB-spline関数で表現されていて、dip/strike angleが単軸方向のみに変化するような準2次元的形状しか推定できないという求解時の技術的困難が残っている。
本発表は、ある断層面の3次元形状と滑りを同時推定する定式化とその解析解を報告する。この定式化では、形状と媒質応答を併せて表現する逆問題のグリーン関数の推定(Agata et al., 2021)は、媒質応答の不確実性のみを評価する順問題のグリーン関数の推定と断層形状推定へと分解でき、いずれも解ける。そこで、我々が報告するのは、滑り・媒質応答の意味でのグリーン関数・断層形状の同時推定手法とその解の解析的表現である。
Shimizu et al. (2021)準拠の我々の問題設定では、断層面の各座標でのポテンシーおよび法線・滑りベクトル、また観測方程式のグリーン関数がモデルパラメターである。最も単純な例として、データ分布を正規分布で設定し、モデルパラメターには以下の事前分布を与えた: ポテンシーの事前分布には任意正規分布、グリーン関数の事前分布には参照値となるグリーン関数をピークに取る正規分布、せん断非弾性歪のダブルカップル成分(モードIについては開口成分)と整合する値にピークを取る、ポテンシー所与での断層法線(と滑り方向)の円周正規分布; そうして、破壊面は線形連続体力学との整合性から滑らかな面(Romanet et al., 2024) として求解される。上記問題設定で、滑り・グリーン関数・断層形状の事後分布を評価し、事後確率最大の最適解及び共分散を計算した。発展的に、Yagi & Fukahata (2011)のように、滑り・グリーン関数の事前分布およびデータ分布の共分散行列のトレース(スケールファクター)を超パラメターとして同時推定している。
推定は、(1)断層上での非弾性歪および断層外の媒質応答を表す滑りとグリーン関数を推定する運動学ステージと(2)非弾性歪テンソルを面上の変位不連続として最も合理的に射影する断層形状を推定する幾何ステージに分かれる。運動学ステージは、断層を仮定したポテンシー(滑り)とグリーン関数(媒質応答)の双線形逆問題であり、線形逆問題とほぼ同様に解ける。推定グリーン関数の参照グリーン関数からの一次補正は、データとポテンシーの重み付きテンソル積で簡潔に表現された。ポテンシーあるいはグリーン関数を積分消去した周辺事後分布は非線形だが、誤差伝播による平均と分散の変動までを加味するLaplace近似(Yagi & Fukahata, 2011)の範疇では、類似の解析を行える。幾何ステージでは、断層上の各座標での滑り方向と面の法線ベクトルの組が、ポテンシーテンソルを最もよく近似するテンソル積をなす2本の直交するベクトルとして定まる。推定法線ベクトルの空間分布は、それに整合的な平滑面としての断層形状の推定値を決め、非ダブルカップル成分が小さい時の摂動解は陽に構成できる。この定式化のsynthetic testでの検証、また、南海沈み込み帯の滑り欠損推定および2013年Balochistan地震の滑り推定への応用例を併せて報告したい。
但し、ここでいう逆問題のグリーン関数の誤差には、転位論の順問題でいうグリーン関数、すなわち力源に対する媒質応答を表す順問題の基本解、の誤差(Hori et al., 2021)に加えて、仮定された断層形状の誤差(Matsu'ura, 1977)が合算されている点は注意を要する。通常のインバージョン解析では、断層形状はモデルを規定する超パラメターの位置付け(Fukahata & Wright, 2008)にあり、3次元的形状推定は度々決定精度に難があった (Jolivet et al., 2014)。この問題に、Shimizu et al. (2021)は、仮定した断層形状で配向が限定される滑りの代わりに非弾性歪(ポテンシー)を推定する(Kikuchi & Kanamori, 1991)ことで、ポテンシーと整合的な面として、断層形状をポテンシーと同程度の精度で推定できることを示した。すなわち、断層変形の生じる地殻変位の観測者から見たとき、滑りと法線(形状)はダブルカップル震源を表現する同等の情報である。しかし、Shimizu et al. (2021)では断層形状はB-spline関数で表現されていて、dip/strike angleが単軸方向のみに変化するような準2次元的形状しか推定できないという求解時の技術的困難が残っている。
本発表は、ある断層面の3次元形状と滑りを同時推定する定式化とその解析解を報告する。この定式化では、形状と媒質応答を併せて表現する逆問題のグリーン関数の推定(Agata et al., 2021)は、媒質応答の不確実性のみを評価する順問題のグリーン関数の推定と断層形状推定へと分解でき、いずれも解ける。そこで、我々が報告するのは、滑り・媒質応答の意味でのグリーン関数・断層形状の同時推定手法とその解の解析的表現である。
Shimizu et al. (2021)準拠の我々の問題設定では、断層面の各座標でのポテンシーおよび法線・滑りベクトル、また観測方程式のグリーン関数がモデルパラメターである。最も単純な例として、データ分布を正規分布で設定し、モデルパラメターには以下の事前分布を与えた: ポテンシーの事前分布には任意正規分布、グリーン関数の事前分布には参照値となるグリーン関数をピークに取る正規分布、せん断非弾性歪のダブルカップル成分(モードIについては開口成分)と整合する値にピークを取る、ポテンシー所与での断層法線(と滑り方向)の円周正規分布; そうして、破壊面は線形連続体力学との整合性から滑らかな面(Romanet et al., 2024) として求解される。上記問題設定で、滑り・グリーン関数・断層形状の事後分布を評価し、事後確率最大の最適解及び共分散を計算した。発展的に、Yagi & Fukahata (2011)のように、滑り・グリーン関数の事前分布およびデータ分布の共分散行列のトレース(スケールファクター)を超パラメターとして同時推定している。
推定は、(1)断層上での非弾性歪および断層外の媒質応答を表す滑りとグリーン関数を推定する運動学ステージと(2)非弾性歪テンソルを面上の変位不連続として最も合理的に射影する断層形状を推定する幾何ステージに分かれる。運動学ステージは、断層を仮定したポテンシー(滑り)とグリーン関数(媒質応答)の双線形逆問題であり、線形逆問題とほぼ同様に解ける。推定グリーン関数の参照グリーン関数からの一次補正は、データとポテンシーの重み付きテンソル積で簡潔に表現された。ポテンシーあるいはグリーン関数を積分消去した周辺事後分布は非線形だが、誤差伝播による平均と分散の変動までを加味するLaplace近似(Yagi & Fukahata, 2011)の範疇では、類似の解析を行える。幾何ステージでは、断層上の各座標での滑り方向と面の法線ベクトルの組が、ポテンシーテンソルを最もよく近似するテンソル積をなす2本の直交するベクトルとして定まる。推定法線ベクトルの空間分布は、それに整合的な平滑面としての断層形状の推定値を決め、非ダブルカップル成分が小さい時の摂動解は陽に構成できる。この定式化のsynthetic testでの検証、また、南海沈み込み帯の滑り欠損推定および2013年Balochistan地震の滑り推定への応用例を併せて報告したい。