日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 活断層と古地震

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、矢部 優(産業技術総合研究所)、大橋 聖和((国研)産業技術総合研究所)、楮原 京子(山口大学)

17:15 〜 19:15

[SSS14-P16] 深夜・未明に発生した歴史地震の日付に関する新たな日付決定手法の提案

*亀井 佑馬1纐纈 一起2大木 聖子1 (1.慶應義塾大学、2.慶應義塾大学SFC研究所)

キーワード:歴史地震、地震史料、深夜、未明

近世以前の日本では,中国にならって一日を12 分割し,十二支をあてるなどして時刻を表していた.多くの時代において不定時法が用いられていたが, 1 分割はおよそ 2 時間である.このうち,子の刻は午前 0 時とその前後 1 時間を指す.つまり,ある日の「子の刻」は,前日の 23 時頃から 24 時頃までと,その日の 0 時頃から 1 時頃までを含む.加えて,近代以前の日本では,日付変更時刻の感覚が現代とは異なっていた.
歴史地震を科学研究に用いる場合,現代的な日付で表記されていることが望ましい.そこで亀井・他(2024)では,『日本被害地震総覧』(宇佐美・他,2013)(以下,『被害地震総覧』)に記載されている歴史地震のうち,子・丑・寅の刻に発生したとされる地震の発生日付を再検討した.再検討に使用した方法のうち簡便な方法は,史料の地震に関する記述に朝を示す言葉があればその日に発生した地震とみなし,夜を示す言葉があれば翌日に発生した地震とみなすというものである.より確実な方法は,史料の地震に関する記述が,その日の他の出来事の記述よりも前にあればその日に地震が発生したと考え,後にあれば翌日に地震が発生したと考えるというものである.再検討の結果,全 57 地震(論文出版後に1件追加)のうち,『被害地震総覧』の日付を変更すべきと判断されたものが 5 地震であった.
本研究では,史料が少ない地震において日付を決定する方法を検討した.橋本(1978)によると,古代・中世では概ね丑の刻と寅の刻の境で日付を変更していた.江戸時代の民間では日の出に相当する明六つ(Fig. 1)に日付を切り替えるようにされていた.さらには,これら基準も厳格なものではなく,地域によって,人によって,切り替える時刻はさまざまであったと考えられている(橋本,1978).このことを検証するため,各史料に記述される時刻と日付の関係を分析した.史料の収集の対象とした地震は亀井・他(2024)が日付を明らかにした地震に加え,『被害地震総覧』で発生時刻が卯の刻とされている地震も対象とした.まず,全史料において分析を行った結果,子の刻と記述する史料のうち現代的な日付と同じ日付で記述している史料は 13.0%,丑の刻のうち同じ日付で記述している史料は 20.1%,寅の刻のうち同じ日付で記述している史料は 76.9%,卯の刻のうち同じ日付で記述している史料は 96.6% であった.つまり,概ね丑の刻と寅の刻の間で日付が変更されていたということがわかる.次に前述した橋本(1978)の江戸時代の民間の日付変更の感覚を検証するため身分別に分析を行ったが,身分ごとの有意差は見られなかった.続いて,各刻ごとに史料の年号と日付変更の割合について単回帰分析を行った.その結果,どの刻においても相関関係が見られなかったため,時代による有意差もないと判断した.また,地域ごとの分析においても地域間での有意差は見られなかったため,概ねどの身分・どの時代・どの地域においても丑の刻と寅の刻の間で日付を変更していることがわかった.そこで,子の刻・丑の刻と記述されている場合は史料に記載されている日付の翌日,寅の刻以降の時刻で記述されている場合は記載の日付と同日とすると,現代的な日付を表している蓋然性が高い.この方法に基づいて,亀井・他(2024)が判断できないとした 12 地震を再度検討したところ,『被害地震総覧』の日付を変更すべきとされたものが 5 地震追加された。この方法でも判断できなかった地震は,子の刻の中間にある日付の切り替わりとの前後関係が取れなかったものである.
史料の著者の時刻認識の異同や写本作成時の誤記などによる地震発生時刻の誤差は考慮が困難であったため,本研究の結果にも含まれていない.従って,日付の判断ができた地震であっても,時刻情報に大きな誤差があった場合には正しい日付になっていない可能性が残っている.この問題に今後対処するためには亀井・他(2024)と同じように,ひとつの日付ではなく「〇月〇日または翌日」などと表現することが考えられるであろう.時刻の方も,古代中世 DB における 1177 年地震の綱文のように,「午前 0~4 時頃」などと範囲で示して誤差を表現することが考えられる.