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[STT43-05] 深層学習によるスロー地震の確率微分方程式表現の獲得と現象理解の深化

キーワード:スロー地震、シグネチャ、確率微分方程式、深層学習、低周波微動
スロー地震は、通常の地震の場合よりもはるかに遅い速度で発生する滑り現象で、プレート境界型地震と関連がある可能性が指摘されており、様々な側面から研究が進められている。スロー地震はその拡散的な性質を持つため、ブラウン運動によって駆動される確率微分方程式(SDE)によって数理的にモデル化できると考えられる。本研究では、スロー地震の中でも特に、地震計で観測可能な、主に2-8Hzの帯域を持つ低周波微動を対象に数理モデルを考える。低周波微動に関する先駆的なモデルとして、Ide[1]によるBrownian Slow Earthquakes(BSE)モデルが挙げられる。BSEモデルは、低周波微動を引き起こすプレート同士の滑り域を単一円震源で単純化したモデルであり、この円形滑り域の半径がSDEに応じてランダムに変化し、それによって地震波が生じるというモデルである。このモデルは、低周波微動のスペクトルを再現できるだけでなく、複数地点での低周波微動の観測データに基づいてパラメータ推定を行うことで、場所ごとのスロー地震の特徴を明らかにする[2]点でも、スロー地震の理解に大いに寄与している。一方で、BSEモデルは2つのパラメータを持つOrnstein-Uhlenbeck(OU)過程という、非常に単純なSDEで記述されている。従って、低周波微動の中心的な近似を行うことができる一方で、スロー地震に対して重要な意味を持つと考えられる流体の影響などは反映されていない。また、BSEモデルは単一観測点を対象にしたモデルであるが、複数の観測点間でスロー地震波形のエンベロープに相関関係がみられることが知られており研究が進められているように、複数の観測点に関するモデルも大変意義深いと考えられる。そこで、本研究ではBSEモデルを非常に柔軟に拡張するために、低周波微動の観測波形よりデータ駆動的にSDEモデルを獲得するというアプローチを提案する。SDEのドリフト項(平均的な挙動を示す項)および拡散項(変動の大きさを示す項)をそれぞれニューラルネットワークとしてモデル化し、実データに基づいて深層学習を行うことでそれらの振る舞いを柔軟に捉える。そして得られたモデルについて、その物理的性質の考察や、より詳細に異なる場所でのモデルの差異に関して議論を行う。また、単一の観測点に対応した1次元のSDEモデルから、複数の近接する観測点での波形の群を対象にした多次元のSDEモデルへの拡張を行い、各地点でのSDEモデルのドリフト項や拡散項がどのような相関関係を持つかについて議論を行う。また、本研究では、深層学習の手法としてIssa et al.(2024)[3]で提案された、時系列データの特徴抽出に優れたSignature法を基にしたSDE学習アルゴリズムを採用している。これを物理的整合性を保ちながら学習できるよう独自に改良することで、スロー地震の詳細な特徴を捉えることができ、かつ多次元の時系列データに対しても展開が容易な手法の開発に成功した。
[1]Ide, S. (2008), A Brownian walk model for slow earthquakes, Geophys. Res. Lett., 35, L17301, doi:10.1029/2008GL034821.
[2] Ide, S., & Maury, J. (2018). Seismic moment, seismic energy, and source duration of slow earthquakes: Application of Brownian slow earthquake model to three major subduction zones. Geophysical Research Letters, 45(7), 3059-3067.
[3] Issa, Z., Horvath, B., Lemercier, M., & Salvi, C. (2024). Non-adversarial training of Neural SDEs with signature kernel scores. Advances in Neural Information Processing Systems, 36.
[1]Ide, S. (2008), A Brownian walk model for slow earthquakes, Geophys. Res. Lett., 35, L17301, doi:10.1029/2008GL034821.
[2] Ide, S., & Maury, J. (2018). Seismic moment, seismic energy, and source duration of slow earthquakes: Application of Brownian slow earthquake model to three major subduction zones. Geophysical Research Letters, 45(7), 3059-3067.
[3] Issa, Z., Horvath, B., Lemercier, M., & Salvi, C. (2024). Non-adversarial training of Neural SDEs with signature kernel scores. Advances in Neural Information Processing Systems, 36.