日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 火山防災の基礎と応用

2025年5月25日(日) 09:00 〜 10:30 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、森田 雅明(東京大学地震研究所)、座長:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、森田 雅明(東京大学地震研究所)

09:00 〜 09:15

[SVC31-01] 富士山の多様な噴火シナリオに対応した事業継続計画(BCP)策定の試み

*小山 真人1 (1.静岡大学防災総合センター)

キーワード:富士火山、噴火シナリオ、事業継続計画、ハザードマップ、タイムライン

火山のハザードマップは山麓全域の噴火災害リスクの地理的分布を示しており、そこから特定の地区が直面する加害現象の種類や程度を読み取ることができる。しかし、刻々と状況変化する現実の噴火危機に対応するためには、その地区が具体的にどのようなプロセスを経て避難の現実化や被災に至り(あるいは被災から免れ)、やがて噴火危機の終了に至るかを時系列でとらえ、各時点での方策や備えを事前に考えておく必要がある。こうした状況推移と対応の時系列は「タイムライン」と呼ばれることもある。
台風などの他の自然災害と比べて火山の噴火シナリオは多様かつ多岐にわたるため、噴火危機のタイムラインを想定することは一般に困難であるが、実際の火山の避難計画や砂防計画では、危険度と噴火警戒レベルが単純増加して噴火に至るシナリオを想定(噴火の規模や様式としては過去の履歴から典型的なものを仮定)した上で各時点での対応を記述している例が多い。しかし、想定したシナリオは起きうる多様なシナリオ中のひとつに過ぎないため、現実との乖離が生じた場合に、かえって対応の混乱や遅延を招く懸念がある。
こうした問題意識に立ち、富士山を例として多様な噴火シナリオを集約・一般化した上で、山麓の一事業所における被災ケースと各時点での対応を整理・類型化し、事業継続計画の基盤とする助言を行ったので、その考え方と中身を提示して批判や改善案を仰ぎたい。
図1は、富士山噴火時に起こりうる状況の時系列(噴火シナリオ)をT0(平常時)からT6(噴火開始)を経てT17(火山活動の終了)までの18時点に整理したものである。噴火危機においては、その時々の火山の危険度が5段階の噴火警戒レベルとして気象庁から発表される。噴火警戒レベルは徐々に上げられる場合もあれば、途中の数値を飛ばす場合もあり、最悪の場合は1のまま噴火に至る。また、レベルを上げても噴火に至らない場合もある。さらに、噴火警戒レベルを補足する情報として、レベルの上げ下げとは独立に「火山の状況に関する解説情報」と「火山の状況に関する解説情報(臨時)」がある。現行の富士山火山避難基本計画(2023年策定)においては、「臨時」ラベルが付された後者が発表された時点で登山客・観光客に下山や帰宅の呼びかけが実施される。なお、富士山では噴火前の火口位置特定が困難なため、噴火警戒レベルを上げていく段階でレベル2(火口周辺規制)は使用されない。図1では、こうした火山の危険度に関する情報発表の時系列の多様性を矢印の分岐によって表現した。
 事業継続計画を策定する事業者の立場から見れば、噴火前のT0時点のうちに、噴火に対応した機材・資材の備蓄をおこなう必要がある。また、T1以後のどの時点で、どのような事態を想定し、どのような作業を行い、どのように従業員を避難させるかを決めておくことが重要である。少なくともT1〜T3の段階において居住地域に避難指示が出ることはないので、事前に決めた手順に従って様々な作業を実行することが可能である。しかし、いったん事業所を含む地区に避難指示が出されれば(T4〜T13時点のどこか)、以後は何もできなくなる。
噴火開始後のT6〜T13の段階では、事業所のある地区が徐々に噴火の影響を受け、ついには被災に至る。火口が遠ければ影響が及ばない場合もありえるが、風向きによっては事業所内に降灰が生じる。また、事業所に影響がなくても物流ルートが遮断される場合がある。事業所の近傍に火口が生じるなどの悪い条件となれば、火砕流・融雪型火山泥流・溶岩流などの加害現象が接近し、避難指示が発令される。事業所に戻ることができるのはT14〜17に至る復旧段階のどこかにおいて、事業所のある地区の避難指示が解かれた時点である。ここでも、まず誰が戻って何を確認し、どのような作業を行うかを事前に決めておく必要がある。
筆者が助言を行った事業所の事業継続計画では、まず現行のハザードマップ(2021年改定版)にもとづいて南西麓に立地する当該事業所に影響を及ぼしうる加害現象をすべてピックアップし、各現象の発生有無と速度、火口位置、天候の3つの条件の組み合わせから、事業所の被災ケース(どの加害現象がどのように襲い、どのような被害が生じるか)を20ケース想定し、各ケースへの具体的な対応内容と手順を考えた(図2,3)。とくに噴火シナリオのT7〜T9時点では加害現象の詳細が徐々に判明するので、どの被災ケースとなりえるかを判断する段階として重要である(図4)。なお、被災ケースの数と中身は事業所の位置とその周囲の微妙な地形に依存するため、今後異なる場所の事業所が事業継続計画を策定する場合には、そのつど火山専門家からの適切な助言を得ることが望ましい。