日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC32] 活動的火山

2025年5月27日(火) 09:00 〜 10:30 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:及川 純(東京大学地震研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

09:30 〜 09:45

[SVC32-12] 火山地域におけるマルチモード表面波分散曲線の抽出:御嶽山における事例研究

*浅井 岬1前田 裕太1渡辺 俊樹1 (1.名古屋大学大学院 環境学研究科)


キーワード:火山、御嶽山、物理探査、地震波干渉法、雑微動トモグラフィ、表面波分散曲線

1.背景と目的
雑微動トモグラフィ(ANT)は地震波干渉法に基づく地下構造イメージング法の一つであり,近年その有用性が認められている.ANTの基本的な過程は(Ⅰ)地震波形の前処理を行い雑微動を抽出する(Ⅱ)雑微動の相互相関関数(CCF)を計算する(Ⅲ)CCFから表面波分散曲線を抽出し逆解析を行うという三つのステップで記述が出来る.ⅠおよびⅡは先行研究によって整備された解析手順が存在するが,Ⅲについては逆解析の結果を改善するための課題がいくらか残る.特にANTを検証する先行研究の殆どは,合成・実データ共に平坦且つ102 kmスケールのフィールドを仮定しており,それ以下のスケールや急峻な地形をもつフィールドに対しては充分な検討がされていない.本研究はANTを火山地域に適用することを目的とし,御嶽山周りの地震観測点で得られた実データを解析することでマルチモード表面波分散曲線を抽出した.本研究はANTの有用性を拡張するほか,火山地域における地下構造探査や表面波挙動の理解に深く貢献する.
2.手法
使用した計43の地震観測点はいずれも御嶽山山頂を中心とした50 km四方以内に位置し,観測点間距離の最大,平均,中央値はそれぞれ42.0,12.7,11.6 kmである.解析したデータ期間は2019年01月01日から同年12月31日までの計一年間,用いた地震計成分は上下,南北,東西の三成分である.
一時間単位の波形に先行研究らと同様の前処理を行うことで雑微動を抽出し,観測点ペア毎のCCFを計算した.それら全てを足しあげて期間平均のCCFとし,水平面上での座標回転を行うことで鉛直(Z),ラジアル(R),トランスバース(T)の三成分間に対する多成分CCFを得た.
求めた多成分CCFにmodified multicomponent frequency-Bessel transform(MMFJ)法を適用し,レイリー波およびラブ波の分散曲線を示すMMFJスペクトログラムを計算した.MMFJスペクトログラムは実際の表面波がもつ周波数および位相速度の組を与えた際に正の無限大に発散するため,その極大点を取ることで分散曲線が推定される.
3.結果と考察
 多成分CCF(Fig. 1)はZZ,RR,ZR,RZ,TTの五成分間で高い相関を示し,前四者はレイリー波,後一者はラブ波の相関を示唆する.その他の成分間ではレイリー波とラブ波の直交性から相関をもたないため,得られたCCFで僅かに相関が見られるのは地下構造の不均質によるものと言える.以上の結果は先行研究らの検証と同様の傾向を示すため,御嶽山におけるANTでは多成分CCFの計算までは先行研究らと同様に可能であると言える.
 MMFJスペクトログラム(Fig. 2)について,R0,R1,R2はレイリー波(それぞれZZ,ZRおよびRZ,RR成分のCCFに基づく)の,L0はラブ波(TT成分のCCFに基づく)の分散データをそれぞれ示す.又,図中の桃色の十字印は各周波数における極大点を示すため,これらの分布が表面波分散曲線を示唆する.全てのスペクトログラムにおいて基本モードは明瞭であるが,高次モードの精度には差がある.第二次高次モードまで明確に確認できるR0の精度が最良と言え,第三次高次モードについてもR2と相補的に考えることで明確な抽出が期待される.R1については,レイリー波がpro-gradeで伝わる分散点においてはその値が負の無限大に発散するため,より正確な高次モードを得るには極小点をも扱う必要があるが,分散データ内に出現する第二種および第三種アーチファクトの存在を加味すると,単に極小点を取るだけではこの問題は解決しない.R2については基本モードの解像度が高いものの,高次モードの分散点が不連続的であり精度が低い.L0については先行研究らの結果と比較しても解像度や精度がかなり低いと言え,地震雑微動の卓越する脈動帯域(0.05-0.5 Hz)を超えるとノイズによる不明瞭が顕著に現れる.以上より,御嶽山のデータを扱ったMMFJスペクトログラムにおいては,Z成分同士のCCFを用いた分散曲線は精度良く抽出が出来るものの,RおよびT成分を含むCCFを用いる場合は精度が低くなると言える.より広域な地域を扱う先行事例ではこのような傾向は見られないため,扱う成分によって分散データの質に差が生じるのは御嶽山のもつ地形や不均質が影響していると考えられる.
4.展望
本研究で得られた分散データが真の構造を反映しているか否かを確認するため,合成データを用いたシミュレーション解析を行う.この際,御嶽山に相当する地形や不均質を加味した合成データを作成することで,火山地域におけるANTの適用性を適切に評価する.
5.謝辞
本研究はJSPS科研費JP19K04016の助成を受けたものである.本研究で使用した地震観測点は,名古屋大学,気象庁(JMA),岐阜および長野県,防災科研(NIED)によって維持管理されているものである.