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[SVC32-14] 1986年伊豆大島割れ目噴火前後の傾斜変動の再解析:傾斜データに基づくダイク貫入過程の検証
キーワード:伊豆大島、傾斜、ダイク貫入
1. はじめに
伊豆大島の噴火警戒レベルのうちの割れ目噴火を想定した判定基準は,噴火発生前に地殻変動が生じる領域を特定できることを前提としたものとなっている.特定には,傾斜変動などのデータと地殻変動源モデルを使用した解析が有効であるが,リアルタイムでは解析が困難な場合や,噴火まで時間的猶予がない場合があり,変動源解析を行わずとも観測データの特徴から,警報を発表するための着眼点を明瞭にしていくことも求められる.このためには,地殻観測データが割れ目噴火をもたらすダイク貫入過程の何を反映しているのか,まずは過去事例を通じて明らかにする必要がある.
1986年11月の割れ目噴火では,地震活動(山岡・他,1988)と島全体で観測された地殻変動の分布を説明するため,北西―南東方向に縦断するダイク貫入モデルが提唱されてきた(Hashimoto&Tada,1990; Linde et al., 2016).一方,島内3点の傾斜データの時間変化に着目すると,割れ目噴火の発生約2時間前から約1カ月間にわたり様々な変化が観測された.上述の貫入モデルに基づけば,これらはダイクの伸展に伴う変化であろうと考えられるが,検証した事例はない.そこで本研究ではこの検証を試みた.
2. 使用データ
御神火茶屋(GJK),波浮(HAB),測候所(OWS)の3点の傾斜データを使用した.GJKとHABは国立防災科学技術センターの観測点で,島田・他(1988)と山本・他(1988)の傾斜時系列グラフ(分値)をデジタイズして解析に用いた.OWSは,気象研究所の観測点で,30分値を解析に用いた.
3. 傾斜変化の特徴
割れ目噴火開始前の約2時間(期間I),その後の噴火割れ目・震源分布拡大期間の中で,噴火割れ目拡大(期間II)と震源分布のみ拡大(期間III)についてそれぞれの特徴を説明する.
期間I:GJKで北東から西下がり(NS成分欠測)に極性が反転し,その変化量は50 μrad以上である(着眼点①).HABでNS成分の極性の反転が見られる.
期間II:GJKでNS成分の極性が反転(着眼点②).OWSで,期間の前半は南下がりの変化が大きく,18時頃で変化の傾向が変わり,期間の後半は西下がりの変化が大きい(着眼点③).
期間III:OWSで南西下がり(着眼点④).HABで南西から北東下がりへ極性が反転する(着眼点⑤).
4. 仮定したダイク貫入過程と解析
上述した先行研究のダイク貫入モデルのパラメータと震源分布や伝搬速度を参照し,各期間について以下のダイク貫入過程を仮定し,それに伴う傾斜時系列変化を岡田モデルを用いて計算した.
期間共通:B噴火開始地点付近(経緯度139.3955°,34.7343°)を通る,傾斜角90°,
走向N50°Wの面内.
期間I:B噴火開始地点を含む,水平長さ・開口量一定のダイクを,12 km深から地表まで上端を上昇(図1のI).
期間II: 12-4 km深・開口量400 cm,4 -0 km深・開口量150㎝の二つのダイクの北西端を,最後の割れ目開口地点付近(C火口北端)まで,その噴火開始時刻に合わせて一定速度で水平伸展(図1のII).
期間III:期間IIの12-4 kmの深いダイクのみを,時速1 km で引き続き北西端を10 km水平伸展(図1のIII).
また,期間Iのダイク水平長さ・開口量は,GJKのB噴火開始時点の観測値と,開始までの観測量最大値を満たすパラメータ組合せをグリッドサーチにより推定した.上昇速度は,その推定した値を用いてGJKの上昇過程を計算し,時系列観測データにフィッティングすることで決めた.
5. 結果
期間I:GJKの計算結果を図2bに示す.ダイク上昇で本期間の最も大きな特徴である極性反転(着眼点①)を説明できている.他の観測点について同じパラメータを用いて計算した結果を図2a, cに示す.HABの極性反転の特徴も定性的に説明できている.
期間II:結果を図3の点線で示す.深~浅部ダイク北西伸展で,本期間の特徴のGJKのNS成分の極性反転(着眼点②)を定性的に説明できている.OWSについては,変化の屈曲と,期間前半でみられた南下がり(着眼点③)が説明できていない.Mannen(2006)によればこの期間は噴煙高度が高かった時期に相当することから,溶岩噴出率が大きかったと予想され,それに伴い地下での減圧が生じた可能性が考えられる.そこで,噴煙高度から噴出率の時間変化を推定し,B噴火開始地点直下5 kmに茂木モデルを置きその収縮の時間変化を計算した(図3の実線),これによりOWSの特徴が再現され,噴出による収縮の影響が含まれている可能性が考えられる.
期間III:深部ダイク北西伸展で,本期間の特徴であるOWSの南西下がり(着眼点④)は定性的に説明できているが,HABで南西から北東下がりへの極性反転(着眼点⑤)はできていない(図3).本期間は,先行研究では南東部のダイク貫入を提唱していることから,山頂付近から南東方向へのダイク水平伸展を仮定した計算を行った.しかし,この場合北東下がりの傾斜変化となり,観測された特徴は説明できない.この特徴の説明には,他の要因を考える必要がある.
伊豆大島の噴火警戒レベルのうちの割れ目噴火を想定した判定基準は,噴火発生前に地殻変動が生じる領域を特定できることを前提としたものとなっている.特定には,傾斜変動などのデータと地殻変動源モデルを使用した解析が有効であるが,リアルタイムでは解析が困難な場合や,噴火まで時間的猶予がない場合があり,変動源解析を行わずとも観測データの特徴から,警報を発表するための着眼点を明瞭にしていくことも求められる.このためには,地殻観測データが割れ目噴火をもたらすダイク貫入過程の何を反映しているのか,まずは過去事例を通じて明らかにする必要がある.
1986年11月の割れ目噴火では,地震活動(山岡・他,1988)と島全体で観測された地殻変動の分布を説明するため,北西―南東方向に縦断するダイク貫入モデルが提唱されてきた(Hashimoto&Tada,1990; Linde et al., 2016).一方,島内3点の傾斜データの時間変化に着目すると,割れ目噴火の発生約2時間前から約1カ月間にわたり様々な変化が観測された.上述の貫入モデルに基づけば,これらはダイクの伸展に伴う変化であろうと考えられるが,検証した事例はない.そこで本研究ではこの検証を試みた.
2. 使用データ
御神火茶屋(GJK),波浮(HAB),測候所(OWS)の3点の傾斜データを使用した.GJKとHABは国立防災科学技術センターの観測点で,島田・他(1988)と山本・他(1988)の傾斜時系列グラフ(分値)をデジタイズして解析に用いた.OWSは,気象研究所の観測点で,30分値を解析に用いた.
3. 傾斜変化の特徴
割れ目噴火開始前の約2時間(期間I),その後の噴火割れ目・震源分布拡大期間の中で,噴火割れ目拡大(期間II)と震源分布のみ拡大(期間III)についてそれぞれの特徴を説明する.
期間I:GJKで北東から西下がり(NS成分欠測)に極性が反転し,その変化量は50 μrad以上である(着眼点①).HABでNS成分の極性の反転が見られる.
期間II:GJKでNS成分の極性が反転(着眼点②).OWSで,期間の前半は南下がりの変化が大きく,18時頃で変化の傾向が変わり,期間の後半は西下がりの変化が大きい(着眼点③).
期間III:OWSで南西下がり(着眼点④).HABで南西から北東下がりへ極性が反転する(着眼点⑤).
4. 仮定したダイク貫入過程と解析
上述した先行研究のダイク貫入モデルのパラメータと震源分布や伝搬速度を参照し,各期間について以下のダイク貫入過程を仮定し,それに伴う傾斜時系列変化を岡田モデルを用いて計算した.
期間共通:B噴火開始地点付近(経緯度139.3955°,34.7343°)を通る,傾斜角90°,
走向N50°Wの面内.
期間I:B噴火開始地点を含む,水平長さ・開口量一定のダイクを,12 km深から地表まで上端を上昇(図1のI).
期間II: 12-4 km深・開口量400 cm,4 -0 km深・開口量150㎝の二つのダイクの北西端を,最後の割れ目開口地点付近(C火口北端)まで,その噴火開始時刻に合わせて一定速度で水平伸展(図1のII).
期間III:期間IIの12-4 kmの深いダイクのみを,時速1 km で引き続き北西端を10 km水平伸展(図1のIII).
また,期間Iのダイク水平長さ・開口量は,GJKのB噴火開始時点の観測値と,開始までの観測量最大値を満たすパラメータ組合せをグリッドサーチにより推定した.上昇速度は,その推定した値を用いてGJKの上昇過程を計算し,時系列観測データにフィッティングすることで決めた.
5. 結果
期間I:GJKの計算結果を図2bに示す.ダイク上昇で本期間の最も大きな特徴である極性反転(着眼点①)を説明できている.他の観測点について同じパラメータを用いて計算した結果を図2a, cに示す.HABの極性反転の特徴も定性的に説明できている.
期間II:結果を図3の点線で示す.深~浅部ダイク北西伸展で,本期間の特徴のGJKのNS成分の極性反転(着眼点②)を定性的に説明できている.OWSについては,変化の屈曲と,期間前半でみられた南下がり(着眼点③)が説明できていない.Mannen(2006)によればこの期間は噴煙高度が高かった時期に相当することから,溶岩噴出率が大きかったと予想され,それに伴い地下での減圧が生じた可能性が考えられる.そこで,噴煙高度から噴出率の時間変化を推定し,B噴火開始地点直下5 kmに茂木モデルを置きその収縮の時間変化を計算した(図3の実線),これによりOWSの特徴が再現され,噴出による収縮の影響が含まれている可能性が考えられる.
期間III:深部ダイク北西伸展で,本期間の特徴であるOWSの南西下がり(着眼点④)は定性的に説明できているが,HABで南西から北東下がりへの極性反転(着眼点⑤)はできていない(図3).本期間は,先行研究では南東部のダイク貫入を提唱していることから,山頂付近から南東方向へのダイク水平伸展を仮定した計算を行った.しかし,この場合北東下がりの傾斜変化となり,観測された特徴は説明できない.この特徴の説明には,他の要因を考える必要がある.