日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC32] 活動的火山

2025年5月27日(火) 10:45 〜 12:15 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:福島 菜奈絵(東京大学先端科学技術研究センター)、田島 靖久(日本工営(株)中央研究所)

11:30 〜 11:45

[SVC32-19] 霧島火山群・えびの高原硫黄山周辺の火山ガスのヘリウム同位体比の時空間分布から探る火山活動

*福島 菜奈絵1角野 浩史1大場 武2谷口 無我3石橋 純一郎4安田 裕紀5小長谷 智哉6外山 浩太郎7松島 健8 (1.東京大学先端科学技術研究センター、2.東海大学理学部化学科、3.気象庁気象研究所、4.神戸大学海洋底探査センター、5.東京大学地震研究所、6.東京科学大学理学院、7.神奈川県温泉地学研究所、8.九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

キーワード:ヘリウム、火山ガス、精密水準測量、希ガス、霧島

霧島火山群の新燃岳やえびの高原硫黄山(以下、硫黄山)は活動的火山であり、新燃岳は2008年以降2010年にかけて小規模噴火、2011年1月には溶岩流出を伴う準プリニー式噴火が発生した。その後新燃岳では2017年10月に小規模噴火が再開し、2018年3月には溶岩流出と断続的な噴火が発生した。さらに2018年4月にえびの高原硫黄山(以下、硫黄山)にて水蒸気噴火が発生した。2011年新燃岳噴火以降の地球物理学的観測によると、マグマ溜まりは新燃岳の北西5 km, 深さ8 kmに位置すると推定されており [1]、この場所は硫黄山の西南西約3kmにあたることから、両火山のマグマ溜まりは共通のものである可能性が考えられる。
本研究では、霧島火山群における火山ガス中のヘリウム同位体比(3He/4He比)の空間分布と、硫黄山周辺のヘリウム同位体比の時間変動を調査した。希ガスは化学的に不活性であり、その同位体比の変動は基本的に端成分の混合で説明できる。特に3He/4He比は、大気の値を1 Ra(1.4×10-6)と定義した際、地殻の値は<0.02 Ra [2]と低いのに対し、マントル(及びマントル由来のマグマ)の値は8±1 Ra [3]と高いため、マグマ性流体の寄与を定量的に評価する指標として有用である。さらに本研究では、精密水準測量から推定された硫黄山地下の圧力源の体積変化と3He/4He比の時間変動を比較することで、火山活動を評価することを目指した。硫黄山地下では、地磁気地電流法により深さ200-700 mに粘土層と推定される低比抵抗領域が確認されており[4]、これがキャップロックとして機能することで熱水溜まりを形成していると考えられている。
 2016年から2024年にかけて数か月おきに、硫黄山と、新燃岳の南西山麓に位置する新湯噴気から採取した。調査期間中の硫黄山と、2017年1月に採取した新燃岳の噴気の大気補正3He/4He比は、おおむね6.8 -8.0 Raであり、マントルの値 (8±1 Ra [3])とほぼ一致した。これは、硫黄山と新燃岳の火山ガスが、低い3He/4He比を示す地殻流体(< 0.02 Ra [2])の影響をほとんど受けていないことを示す。一方で、新湯噴気では2.1-5.9 Raと相対的に低い値を示した。これは、おそらく新燃岳の地下に存在するマグマ起源成分を多く含む熱水系から新湯噴気に至る過程において、地殻成分の混入があったことを示唆する。
新燃岳2017年と新燃岳・硫黄山の2018年の噴火前後で3He/4He比の有意な変動が観測された。2017年10月の噴火に先行して3He/4He比は上昇し、噴火後に低下したものの、2018年噴火時に再び上昇した。この時期、硫黄山下の圧力源の体積は急膨張を示した。その後、圧力源は2018年12月~2021年3月にかけて徐々に増加し、2021年~2023年3月にかけて停滞状態に落ち着いたが、2023年3月~2024年3月では再び膨張を示した。また2022年末から2023年末にかけて、硫黄山南火口を中心に、土砂・硫黄・泥噴出といった地表現象の活発化もみられた [5]。硫黄山の噴気孔のうち、H噴気は高いSO2/H2S比を示しており[6]、マグマ起源成分の寄与が強いことが推定される。圧力源の膨張期(2023年3月から2024年3月)において、H噴気の3He/4He比は有意な増加を示した。この一連の結果は、地下深部のマグマ溜まりからの揮発性成分の供給が、火山活動に大きく影響を与えていることを示す。
3He/4He比の空間分布においては、近年活発である硫黄山や新燃岳周辺で7 Ra以上の高い値が観測され、この領域から周辺部に向かって漸減する傾向が確認された。この分布パターンは、地下の比抵抗構造 [7]と整合的であり、マグマ性流体と地殻流体の間の混合率が、マグマ溜まりからの距離に応じて減少していることを反映していると解釈される。

[1] Nakao et al. (2013), EPS
[2] Ballentine and Burnard (2002), Rev. Mineral. Geochem
[3] Graham (2002), Rev. Mineral. Geochem
[4] Tsukamoto et al. (2018), GRL
[5] 第153回火山噴火予知連絡会提出資料 (2024),51-63
[6] Ohba et al., (2021), EPS
[7] Aizawa et al. (2014) JGR: Solid Earth