11:45 〜 12:00
[SVC32-20] 土壌拡散ガス放出量測定に基づく地下構造評価
キーワード:単体気体水銀、ヘリウム、土壌ガス、側噴火、草津白根火山、水蒸気噴火
1. はじめに
草津白根山は水蒸気噴火を繰り返してきた国内有数の活動的な火山である. 同火山の近年の水蒸気噴火は山頂主火口の外側で繰り返されてきた.その周辺には観光施設や国道が整備されていることから,噴火可能性が相対的に高い領域を評価することは,地域防災のために重要である.側噴火危険評価のために,本研究では土壌拡散ガスに注目した.例えば,CO2 放出率の空間分布は火山浅部の透水構造を反映することがある.すなわち,地中が破砕されている領域の地表では,相対的に高い CO2 放出率が観測される場合がある.そのような破砕帯が地下熱水系と接続している場合は,今後も,その領域で水蒸気噴火が発生する危険が高いであろう.しかし,草津白根山のように植生の発達した火山では植物起源 CO2 の放出が無視できない.そこで本研究では,気体単体水銀 (Gaseous Elementary Mercury, GEM) に注目した.GEM はCO2 と同様にマグマや熱水から揮発する一方で,環境中にはほとんど存在しない.また,現場で高精度に測定できるうえ,植生の影響が比較的小さい.本発表では,草津白根山で実施した GEM,CO2,および He の多点観測結果に基づき,GEM 観測の有効性を議論する.また,同火山・白根火砕丘南側で測定した GEM 放出率分布に基づき,同火山浅部の地下構造を議論する.
2. 方法
使用した水銀濃度測定装置は Lumex 社 RA-915 M である.一般的な土壌拡散 CO2 測定手法と同様に,チャンバーを土壌に被せ, 測定されたチャンバー内部の GEM 濃度に基づいて単位面積あたりの GEM 放出率を計算する.本研究では,測定の信頼性を高めつつ現場作業を簡素化するために,フィルターで GEM を完全に取り除いた空気をチャンバーへ導入する工夫を行った.また,容器の形状を数値計算に基づき検討したことで,1か所あたりの測定時間は 3 分程度,測定下限は 1.7 pg/m2/s を実現した.GEM 放出率の温度依存性を計算により補正するためにアレニウス相関式を用いることで,観測中に変化する気温が測定結果に与える影響を除去した.
3. 結果と議論
2024年に草津白根山において実施した測定では,73 地点の測定を約 17 時間で終えた.高い GEM 放出は山頂主火口の南側斜面,および山頂火口から南東へ 3 km離れた殺生河原噴気域で測定された.最大値は白根火砕丘の南東斜面で測定された 174 ng/m3 で,これは標準的な大気 GEM 濃度 2 ng/m3 の数 10 倍である.放出率は 178.5 pg/m2/s で,非火山地域における一般的な GEM 放出率 2.3 pg/m2/s の数 10 倍に達する.一方で,白根火砕丘や噴気から 1 km以上離れた場所では 0-3 ng/m2(放出率 0-2.6 pg/m2/s)で,これは非火山地域で観測される値に矛盾しない.
地中ガスのヘリウム分析値と比較したところ,大気よりも高い 3He/4He が測定された地点でのみ,高い GEM 放出率が測定された.このことは,草津白根山で測定された GEM はマグマや熱水を起源とするガスに由来することを示唆する.その一方で,CO2 放出率は,GEM 放出率や 3He/4He に対応しなかった.同火山では植物起源の CO2 放出が卓越しているため,マグマ起源 CO2 の放出を認識することが難しいためと思われる.
白根火砕丘南東斜面における GEM 放出率の空間分布によれば,主火口(湯釜)から南西方向へ帯状に 500 m程度のびる高 GEM 放出域が認められた.この領域は,1902年から 1942年にかけて水蒸気噴火が繰り返された領域に相当する.したがって,この領域の地中は,現在も透水性が高く破砕された状態にあると思われる.
本研究実施にあたり文部科学省科研費・基盤(C)(22K03735)を使用しました.
草津白根山は水蒸気噴火を繰り返してきた国内有数の活動的な火山である. 同火山の近年の水蒸気噴火は山頂主火口の外側で繰り返されてきた.その周辺には観光施設や国道が整備されていることから,噴火可能性が相対的に高い領域を評価することは,地域防災のために重要である.側噴火危険評価のために,本研究では土壌拡散ガスに注目した.例えば,CO2 放出率の空間分布は火山浅部の透水構造を反映することがある.すなわち,地中が破砕されている領域の地表では,相対的に高い CO2 放出率が観測される場合がある.そのような破砕帯が地下熱水系と接続している場合は,今後も,その領域で水蒸気噴火が発生する危険が高いであろう.しかし,草津白根山のように植生の発達した火山では植物起源 CO2 の放出が無視できない.そこで本研究では,気体単体水銀 (Gaseous Elementary Mercury, GEM) に注目した.GEM はCO2 と同様にマグマや熱水から揮発する一方で,環境中にはほとんど存在しない.また,現場で高精度に測定できるうえ,植生の影響が比較的小さい.本発表では,草津白根山で実施した GEM,CO2,および He の多点観測結果に基づき,GEM 観測の有効性を議論する.また,同火山・白根火砕丘南側で測定した GEM 放出率分布に基づき,同火山浅部の地下構造を議論する.
2. 方法
使用した水銀濃度測定装置は Lumex 社 RA-915 M である.一般的な土壌拡散 CO2 測定手法と同様に,チャンバーを土壌に被せ, 測定されたチャンバー内部の GEM 濃度に基づいて単位面積あたりの GEM 放出率を計算する.本研究では,測定の信頼性を高めつつ現場作業を簡素化するために,フィルターで GEM を完全に取り除いた空気をチャンバーへ導入する工夫を行った.また,容器の形状を数値計算に基づき検討したことで,1か所あたりの測定時間は 3 分程度,測定下限は 1.7 pg/m2/s を実現した.GEM 放出率の温度依存性を計算により補正するためにアレニウス相関式を用いることで,観測中に変化する気温が測定結果に与える影響を除去した.
3. 結果と議論
2024年に草津白根山において実施した測定では,73 地点の測定を約 17 時間で終えた.高い GEM 放出は山頂主火口の南側斜面,および山頂火口から南東へ 3 km離れた殺生河原噴気域で測定された.最大値は白根火砕丘の南東斜面で測定された 174 ng/m3 で,これは標準的な大気 GEM 濃度 2 ng/m3 の数 10 倍である.放出率は 178.5 pg/m2/s で,非火山地域における一般的な GEM 放出率 2.3 pg/m2/s の数 10 倍に達する.一方で,白根火砕丘や噴気から 1 km以上離れた場所では 0-3 ng/m2(放出率 0-2.6 pg/m2/s)で,これは非火山地域で観測される値に矛盾しない.
地中ガスのヘリウム分析値と比較したところ,大気よりも高い 3He/4He が測定された地点でのみ,高い GEM 放出率が測定された.このことは,草津白根山で測定された GEM はマグマや熱水を起源とするガスに由来することを示唆する.その一方で,CO2 放出率は,GEM 放出率や 3He/4He に対応しなかった.同火山では植物起源の CO2 放出が卓越しているため,マグマ起源 CO2 の放出を認識することが難しいためと思われる.
白根火砕丘南東斜面における GEM 放出率の空間分布によれば,主火口(湯釜)から南西方向へ帯状に 500 m程度のびる高 GEM 放出域が認められた.この領域は,1902年から 1942年にかけて水蒸気噴火が繰り返された領域に相当する.したがって,この領域の地中は,現在も透水性が高く破砕された状態にあると思われる.
本研究実施にあたり文部科学省科研費・基盤(C)(22K03735)を使用しました.