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[SVC34-04] 福島県吾妻火山群一切経山の山体形成史とマグマ供給系

キーワード:吾妻火山、山体形成史、マグマ供給系、不均質マグマ
活動が終了した火山体の形成史と長期マグマ変遷を復元することは、現在活動中の火山の中長期的活動評価や将来予測を行う上で重要である。東北日本弧火山フロント沿いに位置する第四紀複成火山群である吾妻火山の東部には、火山性陥没地の形成に伴い山体の大部分が露出する一切経山が存在する。一切経山の活動年代は、松本・他 (2018) のK-Ar年代測定により約520~180 kaとされている。 一切経山の活動終了後、本地域では活火山である吾妻―浄土平火山が活発に活動している (山元, 2005) 。本研究では、本火山の中長期活動評価を目的に、形成史やマグマプロセスが不明であった一切経山について地形解析・現地調査・薄片観察・全岩化学組成分析を行った。そして現在活動中の吾妻―浄土平火山のマグマ系との比較検討を行った。
一切経山は、現山頂の南側にピークを持つ「一切経南山体」と、現山頂を含む「一切経中央山体」に大別できる(Fig.1:以下「一切経」を省略)。南山体は、7ユニットの溶岩流(下位からSL1~7)と1ユニットの火砕物(SP)の計8ユニットで構成される (Fig.2) 。松本・他 (2018) が年代測定したユニットはSL3と考えられ、その年代は約470 kaである。南山体の溶岩流や火砕岩の礫の中には、苦鉄質包有物を始め、マグマの不完全混合による構造・組織が普遍的に見られる。南山体は、溶岩流ユニットが卓越することから、溶岩流主体の静穏な活動で形成されたと考えられる。
中央山体は、11ユニットの溶岩流(下位からMAL1、ML1、MAL2、ML2~9:MALは著しく変質)と8ユニットの火砕物 (下位からMP1~8)の計19ユニットで構成される。松本・他 (2018)が年代測定したユニットはML9と考えられ、その年代は約250 kaである。MP1より上位ではマグマの不完混合による構造がほとんど見られない。MP1までのユニットは火砕物が多く、以降は下位に溶岩流、上位に火砕物が見られる。したがって、中央山体はMP1までの爆発的噴火主体から溶岩流主体へ移行し、その後再び爆発的噴火主体に変化した活動で形成されたと考えられる。
南山体の岩石について、母岩と苦鉄質包有物をそれぞれ分析した。母岩の斑晶鉱物組み合わせはPl+Cpx+Opx+Opq(tr)±Ol±Qtzで、SiO2量が58.3~63.9 wt.%の安山岩である。苦鉄質包有物の斑晶鉱物組み合わせはPl+Cpx+Opx+Opq(tr)で、SiO2量が52.8~58.3 wt.%の玄武岩質安山岩である。これらはCr・Niのハーカー図上で、珪長質側で収束する2本の直線的トレンドを示す。
これらの特徴から、南山体のマグマ系では1つの珪長質マグマと2つ (高Crと低Cr) の苦鉄質マグマ (計3成分) によるマグマ混合が主要なプロセスであったと考えられる (Fig.3) 。また、2つの直線的トレンドの間にプロットされる岩石がほとんど認められないことから、2つの苦鉄質マグマ同士や2つの混合マグマ同士の混合はなかったと考えられる。
中央山体の岩石は、SiO₂量が57.0~59.5 wt.%の安山岩で、南山体のものと比べ狭い組成領域を示す。斑晶鉱物組み合わせは南山体の母岩と同様である。これらのことから、南山体の活動で混合した不均質なマグマが、中央山体の活動時に均質化したと考えられる。その場合、均質化に要した時間は約20万年以下と見積もられる。しかし、中央山体の、南山体の組成領域の外側 (より低Cr) にプロットされる岩石が存在することから、混合マグマの均質化のみでは組成変化を説明できない。このより低Crを示すマグマは南山体の低Cr苦鉄質マグマからOlとCpxを分別することで生成可能と考えられる。一切経山全体の組成領域は、完新世の吾妻小富士や最新期噴出物 (Ban et al, 2013) の組成領域と概ね重複する。したがって吾妻火山群では、一切経山で見られたような3端成分マグマ混合や分化のプロセスが現在も継続している可能性が考えられる。今後は端成分マグマの成因を検討し、本火山や他の東北日本弧のマグマの中長期変遷のモデル化を試みる。
引用文献
Ban et al. (2013), 古川・他 (2018), 松本・他 (2018), 山元 (2005)
一切経山は、現山頂の南側にピークを持つ「一切経南山体」と、現山頂を含む「一切経中央山体」に大別できる(Fig.1:以下「一切経」を省略)。南山体は、7ユニットの溶岩流(下位からSL1~7)と1ユニットの火砕物(SP)の計8ユニットで構成される (Fig.2) 。松本・他 (2018) が年代測定したユニットはSL3と考えられ、その年代は約470 kaである。南山体の溶岩流や火砕岩の礫の中には、苦鉄質包有物を始め、マグマの不完全混合による構造・組織が普遍的に見られる。南山体は、溶岩流ユニットが卓越することから、溶岩流主体の静穏な活動で形成されたと考えられる。
中央山体は、11ユニットの溶岩流(下位からMAL1、ML1、MAL2、ML2~9:MALは著しく変質)と8ユニットの火砕物 (下位からMP1~8)の計19ユニットで構成される。松本・他 (2018)が年代測定したユニットはML9と考えられ、その年代は約250 kaである。MP1より上位ではマグマの不完混合による構造がほとんど見られない。MP1までのユニットは火砕物が多く、以降は下位に溶岩流、上位に火砕物が見られる。したがって、中央山体はMP1までの爆発的噴火主体から溶岩流主体へ移行し、その後再び爆発的噴火主体に変化した活動で形成されたと考えられる。
南山体の岩石について、母岩と苦鉄質包有物をそれぞれ分析した。母岩の斑晶鉱物組み合わせはPl+Cpx+Opx+Opq(tr)±Ol±Qtzで、SiO2量が58.3~63.9 wt.%の安山岩である。苦鉄質包有物の斑晶鉱物組み合わせはPl+Cpx+Opx+Opq(tr)で、SiO2量が52.8~58.3 wt.%の玄武岩質安山岩である。これらはCr・Niのハーカー図上で、珪長質側で収束する2本の直線的トレンドを示す。
これらの特徴から、南山体のマグマ系では1つの珪長質マグマと2つ (高Crと低Cr) の苦鉄質マグマ (計3成分) によるマグマ混合が主要なプロセスであったと考えられる (Fig.3) 。また、2つの直線的トレンドの間にプロットされる岩石がほとんど認められないことから、2つの苦鉄質マグマ同士や2つの混合マグマ同士の混合はなかったと考えられる。
中央山体の岩石は、SiO₂量が57.0~59.5 wt.%の安山岩で、南山体のものと比べ狭い組成領域を示す。斑晶鉱物組み合わせは南山体の母岩と同様である。これらのことから、南山体の活動で混合した不均質なマグマが、中央山体の活動時に均質化したと考えられる。その場合、均質化に要した時間は約20万年以下と見積もられる。しかし、中央山体の、南山体の組成領域の外側 (より低Cr) にプロットされる岩石が存在することから、混合マグマの均質化のみでは組成変化を説明できない。このより低Crを示すマグマは南山体の低Cr苦鉄質マグマからOlとCpxを分別することで生成可能と考えられる。一切経山全体の組成領域は、完新世の吾妻小富士や最新期噴出物 (Ban et al, 2013) の組成領域と概ね重複する。したがって吾妻火山群では、一切経山で見られたような3端成分マグマ混合や分化のプロセスが現在も継続している可能性が考えられる。今後は端成分マグマの成因を検討し、本火山や他の東北日本弧のマグマの中長期変遷のモデル化を試みる。
引用文献
Ban et al. (2013), 古川・他 (2018), 松本・他 (2018), 山元 (2005)