日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 火山・火成活動および長期予測

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、上澤 真平(電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門)、清杉 孝司(神戸大学理学研究科惑星学専攻)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

17:15 〜 19:15

[SVC34-P13] 十和田火山・八戸カルデラ噴火のマグマプロセス

*伊藤 ひなた1栗谷 豪1、工藤 崇2 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻、2.産業技術総合研究所)


キーワード:十和田火山、八戸噴火、軽石、マグマプロセス

はじめに
十和田火山は東北日本弧の北部に位置する活火山であり、約1.5万年前の八戸噴火(噴火エピソードL)を含む複数回の大規模噴火によってカルデラが形成された(Hayakawa, 1985; 工藤ほか, 2019)。八戸噴火の噴出物は八戸テフラおよび八戸火砕流堆積物(それぞれHP、Th)であり、HPは火山灰を主とする層と石質岩片を含む軽石層が互層(HP1-6)をなし、上層に非溶結で塊状の軽石流堆積物であるThが堆積している。エピソード全体での軽石の全岩SiO2量は66.6-71.9 wt.%であり、斑晶鉱物として斜長石、直方輝石、単斜輝石、普通角閃石及び不透明鉱物を含む(工藤ほか, 2019)。
物質科学的な先行研究として、Hunter & Blake (1995)は、八戸噴火を含む十和田火山の各噴出物の化学分析を行い、噴火史全体のマグマの成因や変遷について検討した。またNakatani et al. (2022)では、エピソードL、Nの2つのカルデラ形成噴火を対象に、結晶化実験に基づいてマグマの温度圧力条件の推定を行った。
カルデラ噴火に関わった膨大な量の珪長質マグマの生成プロセスやその時間スケールを明らかにするべく、伊藤ほか(2024年火山学会)では、まずHP・Th軽石の鏡下観察、全岩化学組成分析、鉱物化学組成分析を行った。本研究では、さらに鉱物化学組成分析を進め、またSr-Nd-Pb同位体比分析を行い、マグマプロセスについての検討を行った。
方法
本研究では、青森県三戸郡新郷村女ヶ崎の露頭において、降下火砕物層と火砕流堆積物層から本質物質である軽石試料を採取した。降下火砕物層は淡灰色火山灰と主に褐色の降下火砕物の互層となっていた。採取した軽石のうち102試料を対象にXRFによる全岩化学組成分析を行い、代表的な6試料についてICP-MSによる微量元素分析及びMC-ICP-MSによるSr-Nd-Pb同位体比分析を行った。また14試料を対象に薄片観察、さらに8試料についてEPMAによる鉱物化学組成分析を行った。
結果
XRFによる全岩化学組成分析の結果、SiO2量は66.0-73.5wt.%の組成幅を示し、先行研究よりもやや広い組成多様性が認められた。ハーカー図上においては、データは概ね直線的な傾向を示した。またICP-MSによる微量元素組成は島弧に特徴的な元素パターンを示し、Eu負異常も見られた。さらにSr、Nd、Pbの同位体比はいずれもSiO2量に対する系統的変化が見られず一定値をとった。
斑晶は斜長石が大部分を占め、次いで直方輝石、単斜輝石、Fe-Ti鉱物、および少量のかんらん石が認められた。またSiO2量が高い試料には角閃石が見られた。鉱物化学組成分析では斜長石のコア組成は共通してAn#50-90の多様性を示した。全岩SiO2量に対する系統的変化は見られなかった。斑晶のコア部のAn#のピークは、SiO2量が約66-69 wt.%の試料ではAn#78-90と54-64であるのに対して、SiO2量が約70-73 wt.%の試料ではAn#54-64を示した。また、どの試料にも累帯構造、逆累帯構造を持つ斜長石が含まれていた。角閃石、単斜輝石、直方輝石のMg#は、全岩SiO2量に対する系統的変化は見られなかった。斜長石と有色鉱物との共存に着目すると、角閃石はAn#50-51の斜長石と共存しているのに対して、単斜輝石はAn#58-87、直方輝石はAn#56-87の斜長石とそれぞれ共存していた。角閃石と両輝石に対して、それぞれRidolfi (2021)およびPutirka (2008)に従い、結晶化温度・圧力条件を推定した。その結果、角閃石の温度は825-885℃、圧力は110-170 MPaと推定されたのに対して、輝石の温度は870-940℃、圧力は500-820 MPaと推定された。
マグマプロセス
Nakatani et al. (2022) では、エピソードLのカルデラ噴火のマグマの蓄積圧力は150-170MPaであると推定しており、本研究で角閃石から推定された圧力はこの結果と一致する。したがって角閃石、および共存するAn#50-51の斜長石は、地殻浅部の巨大なマグマ溜まり内で結晶化したものであり、一方で500-820MPaの結晶化圧力を示す単斜輝石と直方輝石、および共存するAn#56-87の斜長石は、より深部のマグマ溜まりに由来することが示唆される。この推定結果や逆累帯構造を示す斜長石斑晶の存在などから、全岩組成の多様性の形成プロセスとして、地殻浅部(150-170MPa)のマグマ溜まり内での結晶分化作用のみでは説明できず、マグマ混合が関与していたことが考えられる。しかしながら、Sr-Nd-Pb同位体比は全て全岩SiO2量によらず一定値をとったことから、別起源のマグマが混合したことは考えづらく、共通の親マグマに由来することが示唆される。したがって、マグマプロセスとしては、地殻深部のマグマ溜まり内(500-820 MPa)において、同一の親マグマからの結晶分化作用によりマグマ組成が多様化し、そこから多様なマグマが上昇して浅部のマグマ溜まり内(110-170MPa)に蓄積・混合した可能性が考えられる。