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[SVC35-09] 2024年9月に採取した岩手山大地獄谷の噴気の特徴
キーワード:岩手山、噴気、直接採取、化学分析
岩手山は地形的な特徴から西岩手山と東岩手山に大別できる. 最近7,000年の間に西岩手山では水蒸気噴火, 東岩手山ではマグマ噴火が繰り返されており, 現在でも火山防災上の懸念となっている[1]. 岩手山では1998年にはマグマの貫入が疑われる地震・地殻変動・噴気活発化等が発生したが, 噴火は発生しなかった. 最近では, 2024年2月以降に岩手山の深部の膨張, 黒倉山付近での火山性地震の増加, 西岩手山の大地獄谷付近の浅部膨張を示す地殻変動などが観測され, 10月2日に噴火警戒レベルを1から2に引き上げられた[2]. 水蒸気噴火の予測には, 熱水系におけるマグマ起源成分と熱水系起源成分の比率を知ることが有益であり, そのためには熱水系から排出される噴気等の化学・安定同位体比の分析が役に立つ[3]. 今回, 私たちは2024年9月5日に現地調査を実施し, 大地獄谷の噴気地帯で噴気を採取した. 本発表では, 採取した噴気の化学組成・安定同位体比の特徴について述べる.
2024年9月5日の調査では, 大地獄谷の南側にある硫黄尖塔およびその近傍の噴気孔の2カ所で噴気を採取した. 噴気の採取にあたってはゴム管を接続したチタン製のパイプを噴気孔に挿入して隙間を塞ぎ, 大気が混入しない様に噴気の誘導経路を確保した. 噴気の採取はOzawa[4]とGiggenbach[5]を参考に, 脱気したガラス瓶に封入したアルカリ溶液に吸収させたほか, SO2/H2S比を正確に求めるために噴気をヨウ素溶液に通気してSO2をSO4に, H2SをSに酸化して実験室に持ち帰った.
2024年9月の調査では, 大地獄谷内の噴気は現地標高における沸点と概ね同程度の温度であり, 採取した噴気も95.5-96.4℃だった. 一般的には高温の噴気で値が大きいSO2/H2S比は0.01-0.02, SO2 + 3H2 = H2S + 2H2Oの反応から計算される見かけの平衡温度(AETs)は212-227℃と見積もられた. 噴気の水のδD(-68.6--58.3‰), δ18O値(-7.5--4.5‰)は岩手山周辺の天水と典型的な高温のマグマ性ガス[6-7]の混合領域にあるが, 2024年9月時点で天水成分が優勢であった. 一方, 1998年unrestでは, 噴気の化学観測が開始された1998年6月から1999年5月にかけての約1年間の間に, 噴気の最高温度は135℃から143℃に, SO2/H2S比は0.05から0.2を超え, AETsは464℃から642℃に達し, 水のδD , δ18O値も典型的なマグマ性蒸気のそれに近い値に近接するなど[8], 噴気温度や各種の化学的指標に顕著な変化が観察されており, 今後も注意深く観測を続けたい.
*本研究の一部には東京大学地震研究所共同利用(ERI JURP 2024-KOBO16)の研究費を使用しています.
[1] 伊藤順一・土井宣夫 (2005) 岩手火山地質図, 地質調査総合センター, 7pp. [2] 気象庁 (2025) 火山活動解説資料(岩手山)(年報), 19pp. [3] 大場武 (2022) 地球化学56, 64-75. [4] 小沢竹二郎 (1968) 分析化学, 17, 395-405. [5] Giggenbach W.F. and Goguel R.L. (1989) NZ DSIR Chem. Rep. 2401:1-82. [6] 日下部実・松葉谷治 (1986) 火山, 30, S267-S283. [7] Taran Y. et al., (1989) Dokl. Acad. Sci. USSR 304, 440-443. [8] Ohba T. et al. (2011) Annals of Geophysics, 54, 187-197.
2024年9月5日の調査では, 大地獄谷の南側にある硫黄尖塔およびその近傍の噴気孔の2カ所で噴気を採取した. 噴気の採取にあたってはゴム管を接続したチタン製のパイプを噴気孔に挿入して隙間を塞ぎ, 大気が混入しない様に噴気の誘導経路を確保した. 噴気の採取はOzawa[4]とGiggenbach[5]を参考に, 脱気したガラス瓶に封入したアルカリ溶液に吸収させたほか, SO2/H2S比を正確に求めるために噴気をヨウ素溶液に通気してSO2をSO4に, H2SをSに酸化して実験室に持ち帰った.
2024年9月の調査では, 大地獄谷内の噴気は現地標高における沸点と概ね同程度の温度であり, 採取した噴気も95.5-96.4℃だった. 一般的には高温の噴気で値が大きいSO2/H2S比は0.01-0.02, SO2 + 3H2 = H2S + 2H2Oの反応から計算される見かけの平衡温度(AETs)は212-227℃と見積もられた. 噴気の水のδD(-68.6--58.3‰), δ18O値(-7.5--4.5‰)は岩手山周辺の天水と典型的な高温のマグマ性ガス[6-7]の混合領域にあるが, 2024年9月時点で天水成分が優勢であった. 一方, 1998年unrestでは, 噴気の化学観測が開始された1998年6月から1999年5月にかけての約1年間の間に, 噴気の最高温度は135℃から143℃に, SO2/H2S比は0.05から0.2を超え, AETsは464℃から642℃に達し, 水のδD , δ18O値も典型的なマグマ性蒸気のそれに近い値に近接するなど[8], 噴気温度や各種の化学的指標に顕著な変化が観察されており, 今後も注意深く観測を続けたい.
*本研究の一部には東京大学地震研究所共同利用(ERI JURP 2024-KOBO16)の研究費を使用しています.
[1] 伊藤順一・土井宣夫 (2005) 岩手火山地質図, 地質調査総合センター, 7pp. [2] 気象庁 (2025) 火山活動解説資料(岩手山)(年報), 19pp. [3] 大場武 (2022) 地球化学56, 64-75. [4] 小沢竹二郎 (1968) 分析化学, 17, 395-405. [5] Giggenbach W.F. and Goguel R.L. (1989) NZ DSIR Chem. Rep. 2401:1-82. [6] 日下部実・松葉谷治 (1986) 火山, 30, S267-S283. [7] Taran Y. et al., (1989) Dokl. Acad. Sci. USSR 304, 440-443. [8] Ohba T. et al. (2011) Annals of Geophysics, 54, 187-197.