日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC35] 火山の熱水系

2025年5月25日(日) 15:30 〜 17:00 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京科学大学総合研究院多元レジリエンス研究センター)、谷口 無我(気象庁気象研究所)、座長:神田 径(東京科学大学総合研究院多元レジリエンス研究センター)、谷口 無我(気象庁気象研究所)

16:30 〜 16:45

[SVC35-10] 活火山熱水系における不均一系地球化学平衡に関する理論的ならびに観測的研究

*穐山 拓実1,2大沢 信二1 (1.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設、2.京都大学大学院工学研究科(現所属))


キーワード:九重硫黄山、水蒸気噴火、熱水系、低温噴気

突発的に発生する水蒸気噴火に伴う人的被害の軽減には、火山性地震や地殻変動、マグマ性ガスの検知のみならず、噴火の直接的な原因となる火山体内の熱水系の挙動に対する理解が必要不可欠である。

本研究では、高温噴気(火山ガス)だけでなく、熱水系に結びつく低温の噴気や、温泉水の地球化学観測データが得られている九重火山の1995年水蒸気噴火に焦点を当て、気液二相系の物理化学の理論に基づいて噴気の水同位体組成やガス組成から、水蒸気噴火を引き起こす火山熱水系の重要な情報である、温度や蒸気分率などの抽出を試みた。

九重火山の1995年噴火(主として水蒸気噴火)は、既存の噴気地帯から300mほど離れた、噴気活動のないD-regionで発生した。既存資料等を参照し、噴火以前に地下水とマグマ性水蒸気の混合により新たな熱水が形成されていたとして、既往研究の噴気凝縮水や湧水の水同位体組成δD-δ18Oの解析から、地下水とマグマ性水蒸気の混合率を求めると、およそ37:63であった。この結果を用いて、熱量保存則により熱水温度を計算すると、372℃と臨界温度付近に推定された。

一方、既存の噴気地帯(A,B,C-region)から水蒸気噴火の前後にわたって継続的に放出されていた、比較的低温(95℃程度)かつSO2/H2S比の低い気液二相由来の噴気を対象に、火山体内の気液二相系の熱水貯留層で、CH4 + 2H2O CO2 + 4H2 (メタン系と呼称)と、H2S + 4H2O 4H2 + 2H+ + SO42- (同様に硫酸系)の2つの化学平衡の成立を想定し、気相・液相間のガス成分の分配を考慮して、熱水貯留層の温度と蒸気分率を計算したところ、噴火前後を通して熱水卓越状態(蒸気分率はほぼ0.1未満)で、温度は264~277℃と解析された。

前者の手法により示された熱水温度372℃は、気液二相状態にある熱水のものであることから、水蒸気噴火発生場D-regionの地下に形成された熱水貯留層の圧力は一意的に212atmとなり、静岩圧下では深度814mと換算できる。この結果は、1995年九重火山噴火に伴う地殻変動の原因となる、浅部力源が海抜500m(約1000m深)にあるという結果(西ほか, 1996)と整合的であり、その圧力源はマグマ性水蒸気によって臨界温度近くまで昇温した地下水であった可能性がある。

一方、後者の手法による既存の噴気地帯(A,B,C-region)の温度推定結果(264~277℃)から、噴火前から継続的に火山体内に存在していた気液二相貯留層は、今回の研究でD-region下に知られたものに比べ低圧(49~60atm)で、浅い深度(静岩圧平衡では深度189~231m)に存在する別の熱水系であると推定される。既存噴気地では、熱水系の水蒸気圧の低さに加え、継続的な噴気放出による圧力緩和や、気液二相貯留層を安定に存在させる岩盤の強度が関係して、熱水系が安定に維持された結果、水蒸気噴火に至らなかったと想像される。