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[U02-P03] 沖永良部島サンゴに記録された高解像度Δ14C、δ18O、δ13C変動

キーワード:黒潮、琉球海流、Δ14C スパイク、酸素同位体比、サンゴ
黒潮は、北西太平洋を北上する強力な暖流である。琉球海流は、台湾沖で黒潮と分岐し、琉球列島の東側を北上する流れである。これらの海流は低緯度地域から中緯度地域への熱輸送を担い、東アジアの気候変動に大きな影響を与えると考えられている。黒潮流域の海洋観測は1950年代から開始され、海流の物理的特性が調査されてきた。しかし、観測データは断続的である上に、数年から数十年スケールの気候変動に関する情報は不足している。したがって、大気と海洋の長期変動を理解するためには、連続的かつ長期的なデータに基づいて海流の特性を再構築することが必要である。
海洋循環の再構築のためのプロキシの一つとして、放射性炭素同位体(14C)が挙げられる。14Cは上層大気中で生成され、大気海洋間のCO2交換によって海洋表層に取り込まれる。海洋表層と深層水の間には14C濃度の勾配が生じるため、海洋中の14C濃度は水塊の空間的分布を理解する上での重要なトレーサーとなる。海洋中に生息するサンゴは成長過程において、周囲の海水から14Cを含む溶存無機炭素を炭酸カルシウム骨格に固定する。したがって、サンゴ骨格の14C濃度(Δ14C)は、水塊の空間分布を示す長期的な指標として用いることができる。特に、1950年代に中部太平洋で実施された大気圏内核実験によって放出された放射性降下物は、海洋中のΔ14Cに顕著なピーク(Δ14Cスパイク)をもたらした。このΔ14Cスパイクは、黒潮の上流と下流でピークの到達時期、本数、高さや形状に差が生じるため、水塊の移動や混合の特徴的な指標として用いられている。Δ14Cスパイクはこれまで、グアム島(Andrews et al., 2016)、石垣島(Hirabayashi et al., 2017)、喜界島(Zeng et al., 2024)などで報告されている。グアム島と石垣島のサンゴでは3本のピークが確認されたものの、より下流に位置する喜界島のサンゴから検出されたピークは1本のみであった。ピークの本数の減少は海流の輸送過程における希釈の影響と考えられているが、この地域の黒潮と琉球海流、あるいは黒潮反流(黒潮から分岐し南または西向きに向かう流れ)がサンゴのΔ14Cデータに与える影響はまだ明らかにされていない。
そこで本研究では、石垣島(24.3°N)と喜界島(28.3°N)の間に位置する沖永良部島(27.3°N)のサンゴのΔ14C測定を実施し、黒潮流域における高精度な海流輸送の復元を試みた。さらに、海洋環境のプロキシとして、酸素同位体比(δ18O)や、炭素同位体比(δ13C)がしばしば用いられる。δ18Oは水温データとともに用いることで、塩分変動を復元することができる。δ13Cはサンゴ内に共生する褐虫藻の光合成の影響を受けるため、日射量の変化を一部反映すると考えられている。本研究では、Δ14Cに加え、δ18Oおよびδ13Cも用いることで、海洋循環をより多角的に再構築することを試みた。発表では、これらの測定結果を先行研究における他地域のサンゴデータと比較しながら議論を行う予定である。
References
Andrews et al. (2016). Journal of Geophysical Research: Oceans, 121(8), 6351-6366.
Hirabayashi et al. (2017). Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 18(4), 1608-1617.
Zeng et al.(2024). Global Biogeochemical Cycles, 38(4), e2023GB007927.
海洋循環の再構築のためのプロキシの一つとして、放射性炭素同位体(14C)が挙げられる。14Cは上層大気中で生成され、大気海洋間のCO2交換によって海洋表層に取り込まれる。海洋表層と深層水の間には14C濃度の勾配が生じるため、海洋中の14C濃度は水塊の空間的分布を理解する上での重要なトレーサーとなる。海洋中に生息するサンゴは成長過程において、周囲の海水から14Cを含む溶存無機炭素を炭酸カルシウム骨格に固定する。したがって、サンゴ骨格の14C濃度(Δ14C)は、水塊の空間分布を示す長期的な指標として用いることができる。特に、1950年代に中部太平洋で実施された大気圏内核実験によって放出された放射性降下物は、海洋中のΔ14Cに顕著なピーク(Δ14Cスパイク)をもたらした。このΔ14Cスパイクは、黒潮の上流と下流でピークの到達時期、本数、高さや形状に差が生じるため、水塊の移動や混合の特徴的な指標として用いられている。Δ14Cスパイクはこれまで、グアム島(Andrews et al., 2016)、石垣島(Hirabayashi et al., 2017)、喜界島(Zeng et al., 2024)などで報告されている。グアム島と石垣島のサンゴでは3本のピークが確認されたものの、より下流に位置する喜界島のサンゴから検出されたピークは1本のみであった。ピークの本数の減少は海流の輸送過程における希釈の影響と考えられているが、この地域の黒潮と琉球海流、あるいは黒潮反流(黒潮から分岐し南または西向きに向かう流れ)がサンゴのΔ14Cデータに与える影響はまだ明らかにされていない。
そこで本研究では、石垣島(24.3°N)と喜界島(28.3°N)の間に位置する沖永良部島(27.3°N)のサンゴのΔ14C測定を実施し、黒潮流域における高精度な海流輸送の復元を試みた。さらに、海洋環境のプロキシとして、酸素同位体比(δ18O)や、炭素同位体比(δ13C)がしばしば用いられる。δ18Oは水温データとともに用いることで、塩分変動を復元することができる。δ13Cはサンゴ内に共生する褐虫藻の光合成の影響を受けるため、日射量の変化を一部反映すると考えられている。本研究では、Δ14Cに加え、δ18Oおよびδ13Cも用いることで、海洋循環をより多角的に再構築することを試みた。発表では、これらの測定結果を先行研究における他地域のサンゴデータと比較しながら議論を行う予定である。
References
Andrews et al. (2016). Journal of Geophysical Research: Oceans, 121(8), 6351-6366.
Hirabayashi et al. (2017). Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 18(4), 1608-1617.
Zeng et al.(2024). Global Biogeochemical Cycles, 38(4), e2023GB007927.