09:30 〜 09:50
[U05-02] 日本列島陸域における地殻熱流量データ:気候変動による擾乱と孔井内温度分布に基づく地表面温度変動の復元
★招待講演
キーワード:熱流量、日本列島、孔井、気候変動、地表面温度
地殻熱流量(単に「熱流量」と記すことが多い)は、地表面から単位面積・単位時間あたりに流出する熱の量であり、地温勾配と熱伝導率の積として求められる。地下の温度構造を推定するには、熱流量が最も基礎的なデータとなる。日本列島の陸上及び周辺海域における熱流量測定は、1960年頃に開始され、その結果は、沈み込み帯の温度構造やテクトニクスの研究に大きく貢献してきた。東北日本弧と西南日本弧で熱流量分布の特徴が大きく異なることは、沈み込み帯の多様性を示す重要な成果であり、主に沈み込む海洋プレートの年齢の違いによるものと考えられている。我々は、日本列島を含む北西太平洋の広い領域(北緯0~60度、東経120~160度)について、熱流量データの収集を行ってきており、最新のコンパイル結果(濱元・山野, 2019)のデータ点数は3670である。
日本列島陸域の熱流量データは、これまで、分布に偏りがあり、地域によっては非常に疎らであった。これは、陸域での熱流量測定には、地表面付近の擾乱を避けるために深い孔井が必要であり、測定に適した孔井が限られることによる。この状況を改善しつつあるのが、Hi-net(高感度地震観測網)の観測井で得られた温度データである。Hi-net観測網は、日本全域を密に、均質に覆っている点で理想的であるが、大部分の観測井は深さ100 m程度と浅く、地下水流動や地表面温度の変動による擾乱を受けやすい。Matsumoto et al. (2022)は、これらの擾乱を考慮して、東北地方のHi-net観測点における熱流量を求め、地下温度構造の推定を行っている。地下水流動による擾乱が見られるデータを除外した上で、過去100年間の気温上昇のモデルを用いて地表面温度変動の影響を補正したもので、他の地域でも同様にして新たな熱流量データが得られることが期待される。
地表面温度の時間変動が熱拡散により地下に浸透することは、上記のように熱流量測定に対するノイズとなるが、その一方で、地下の温度分布には過去の地表面温度の情報が記録されることになる。これを利用し、孔井内で測定した温度分布を解析することにより、その地点における数十年~100年スケールの長期的な地表面温度変動を推定することが可能である。この手法により過去の気候変動を復元する研究は、1980年代以後、北米やヨーロッパを中心に盛んに行われ、温暖化の研究に貢献してきている。同様な解析による地表面温度変動の研究は、日本や東アジアの各地でも行われ、以下の例などの興味深い結果が得られている。Goto and Yamano (2010)は、淡路島北部と蔚山(韓国南東部)における解析結果を比較し、地表面温度と近傍の海面温度の関係を検討した。また濱元ほか(2009)は、バンコクとその周辺地域において、近年の地表面温度上昇量が場所により大きく異なるという結果を得て、ヒートアイランド現象などの都市化の影響を反映するものと考察している。
参考文献
Goto, S. and M. Yamano, 2010. Phys. Earth Planet. Inter., 183, 435-446, doi:10.1016/j.pepi.2010.10.003.
濱元栄起・山野誠, 2019. 日本列島及びその周辺域の地殻熱流量データベース, 「日本列島及びその周辺域の熱データベース」(産業技術総合研究所地質調査総合センター), https://www.gsj.jp/Map/JP/geology.html.
濱元栄起ほか, 2009. 物理探査, 62, 575-584, doi: 10.3124/segj.62.575.
Matsumoto et al., 2022, Earth Planet. Space, 74, doi:10.1186/s40623-022-01704-4.
日本列島陸域の熱流量データは、これまで、分布に偏りがあり、地域によっては非常に疎らであった。これは、陸域での熱流量測定には、地表面付近の擾乱を避けるために深い孔井が必要であり、測定に適した孔井が限られることによる。この状況を改善しつつあるのが、Hi-net(高感度地震観測網)の観測井で得られた温度データである。Hi-net観測網は、日本全域を密に、均質に覆っている点で理想的であるが、大部分の観測井は深さ100 m程度と浅く、地下水流動や地表面温度の変動による擾乱を受けやすい。Matsumoto et al. (2022)は、これらの擾乱を考慮して、東北地方のHi-net観測点における熱流量を求め、地下温度構造の推定を行っている。地下水流動による擾乱が見られるデータを除外した上で、過去100年間の気温上昇のモデルを用いて地表面温度変動の影響を補正したもので、他の地域でも同様にして新たな熱流量データが得られることが期待される。
地表面温度の時間変動が熱拡散により地下に浸透することは、上記のように熱流量測定に対するノイズとなるが、その一方で、地下の温度分布には過去の地表面温度の情報が記録されることになる。これを利用し、孔井内で測定した温度分布を解析することにより、その地点における数十年~100年スケールの長期的な地表面温度変動を推定することが可能である。この手法により過去の気候変動を復元する研究は、1980年代以後、北米やヨーロッパを中心に盛んに行われ、温暖化の研究に貢献してきている。同様な解析による地表面温度変動の研究は、日本や東アジアの各地でも行われ、以下の例などの興味深い結果が得られている。Goto and Yamano (2010)は、淡路島北部と蔚山(韓国南東部)における解析結果を比較し、地表面温度と近傍の海面温度の関係を検討した。また濱元ほか(2009)は、バンコクとその周辺地域において、近年の地表面温度上昇量が場所により大きく異なるという結果を得て、ヒートアイランド現象などの都市化の影響を反映するものと考察している。
参考文献
Goto, S. and M. Yamano, 2010. Phys. Earth Planet. Inter., 183, 435-446, doi:10.1016/j.pepi.2010.10.003.
濱元栄起・山野誠, 2019. 日本列島及びその周辺域の地殻熱流量データベース, 「日本列島及びその周辺域の熱データベース」(産業技術総合研究所地質調査総合センター), https://www.gsj.jp/Map/JP/geology.html.
濱元栄起ほか, 2009. 物理探査, 62, 575-584, doi: 10.3124/segj.62.575.
Matsumoto et al., 2022, Earth Planet. Space, 74, doi:10.1186/s40623-022-01704-4.