日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] 口頭発表

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[U-11] 連鎖複合災害に対峙する人間圏: 能登半島豪雨災害の総合科学

2025年5月29日(木) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:松四 雄騎(京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境分野)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、佐々 浩司(高知大学教育研究部自然科学系理学部門)、田村 和夫、座長:宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

15:50 〜 16:10

[U11-06] 2024年9月能登半島豪雨による人的被害発生場所の特徴

★招待講演

*牛山 素行1 (1.国立大学法人静岡大学)

キーワード:洪水・土砂災害、気象情報、ハザードマップ

2024年9月21日、石川県能登地方で大雨が発生した。この大雨により、石川県輪島市、珠洲市、能登町で死者16人などの被害が生じた。筆者は1999年以降に日本で発生した風水害による人的被害(死者・行方不明者)の調査を続けている。人的被害の状況や発生場所については、報道,住宅地図,空中写真など,一般的に入手可能な情報と,筆者の現地での観察をもとに推定している。近年は特に、人的被害が発生した場所の災害リスク情報(ハザードマップ等)や、被害発生時に発表されていた防災気象情報についての解析を進めている。今回の大雨に関しても調査を行ったので、その概要を報告する。
検討対象とした防災気象情報は,被災場所近隣の気象庁AMeDAS観測所の降水量(1,2,3,4,5,6,12,24,48,72時間降水量のいずれか),被災時間帯前までに発表されていた警報等(大雨警報,洪水警報,土砂災害警戒情報,大雨特別警報),顕著な大雨に関する気象情報,記録的短時間大雨情報,被災時間帯における洪水キキクルまたは土砂キキクルの危険度とした。検討対象の災害リスク情報は,洪水浸水想定区域,家屋倒壊等氾濫想定区域,土砂災害警戒区域,地形分類である。
今回の大雨による死者16人のうち、15人の被災場所が推定された。同一箇所での被災が複数あり、被災箇所数は13箇所である。市町村別の内訳は、輪島市8箇所(10人)、珠洲市3箇所(3人)、能登町2箇所(2人)である。
被害を生じた原因外力は、「洪水」が7箇所(9人)、「土砂」が6箇所(6人)だった。原因外力が「洪水」によるものか、「土砂」によるものかの分類が難しいケースもしばしばある。今回の災害では、こうしたケースが比較的多かった。筆者の調査では、被災場所付近の渓流の勾配が3度以上の場合を「土砂」、3度未満の場合を「洪水」と分類している。これは、土石流が流下する勾配が、おおむね2~3度までであることから定義したものである。
被災した場所は、「屋内」(何らかの建物の中)が6箇所(6人)、「屋外」が6箇所(7人)、不明が1箇所(2人)だった。「屋外」のうち1箇所(1人)は車で移動中の被災だった。
被災した時間帯が推定できたのは13箇所のうち11箇所(13人)だった。降水量の観測史上最大値の更新は、11箇所の全てで認められた。洪水キキクルまたは土砂キキクルの危険度は、「危険(警戒レベル4相当)」が8箇所(9人)、「切迫(警戒レベル5相当)」が3箇所(4人)で、警戒レベル3相当以下の場所は認められなかった。顕著な大雨に関する気象情報は11箇所全てで発表されていた。記録的短時間大雨情報は8箇所(10人)で発表されていた。
「土砂」による被災箇所は、6箇所のうち3箇所(3人)が土砂災害警戒区域の範囲外だった。このうち2箇所(2人)は、周囲に家屋がなく、土砂災害警戒区域の指定対象外の場所と考えられる。「洪水」による被災箇所は、7箇所すべてが洪水浸水想定区域の範囲外だった。ただし、これら7箇所の地形は、いずれも洪水の可能性がある低地だった。
今回の大雨により人的被害が発生した場所では、被災した時間帯までに、いずれも極めて危険性が高くなっていることを示す防災気象情報が発表されていたと考えられる。災害リスク情報については、特に「洪水」による被災箇所で、ハザードマップで危険性が示されていない場所が目立った。洪水浸水想定区域は中小河川付近では指定されていないケースが少なくない。今回の大雨では、こうした場所での被害が多かった事例と考えられる。中小河川付近での洪水浸水想定区域の指定を進めるとともに、中小河川付近での洪水災害の危険性についての注意喚起が重要であると考えられる。