日本地球惑星科学連合2025年大会

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[U-12] CO環境の生命惑星化学

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人理化学研究所)、尾崎 和海(東京工業大学)、座長:北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人理化学研究所)


11:15 〜 11:30

[U12-08] 初期地球・火星およびタイタン大気中での靄生成におけるCOの役割

*小林 憲正1,2,3、Airapetian Vladimir4,5,6梶木屋 裕斗2,3宇土 拓海1池田 伊吹1,2,3中島 幹二2,3癸生川 陽子2柴田 裕実7、羽倉 尚人8 (1.横浜国立大学、2.東京科学大学、3.理化学研究所、4.NASAゴダード宇宙飛行センター、5.アメリカ大学、6.京都大学、7.神戸大学、8.東京都市大学)

キーワード:一酸化炭素、靄、初期地球、初期火星、タイタン、太陽高エネルギー粒子

初期地球および火星大気組成がどのようなものであったかに関しては,かつてはメタン・アンモニアを主とする強還元型とする説もあったが,今日では二酸化炭素・一酸化炭素・窒素をしゅとする弱還元型であった可能性が示唆されており,特に初期火星では一酸化炭素濃度がかなり高かった可能性が考えられている[1]。かつては,弱還元型大気からのアミノ酸などの有機物生成は困難と考えられていたが,宇宙線(GCR)[2]や太陽高エネルギー粒子(SEP)[3]のような高エネルギー粒子線を用いれば,弱還元型大気からもアミノ酸前駆体(加水分解によりアミノ酸を与える化合物)が効率的に生成することがわかった。特に後者は,若い太陽からのフラックスが極めて高い可能性が示唆されている[4]ため,地球外からの供給を上回る多量のアミノ酸(前駆体)の生成が可能だったと考えられる。
一方,土星の衛星タイタンは窒素・メタンを主とする濃厚な大気を持ち,大気中で靄(の生成が知られている。探査機ホイヘンスにより,靄が複雑な有機物からなることが確認された。靄の成因としては,高層大気中で生成した有機物が降下しながら成長するというモデルが一般に考えられている。しかし,タイタン低層大気を模した混合ガスに陽子線を照射すると靄が生じること,この靄は高分子態の有機物で加水分解するとアミノ酸を生じることなどが分かっている[5]。つまりGCRやSEPによりタイタン対流圏で高分子態有機物からなる靄の生成が想定される。有機体の靄の生成は,惑星・衛星における生命誕生に向けた化学進化や,惑星気候への影響が考えられる。
 本研究では,COを含む模擬初期地球・火星大気にGCR, SEPを模した陽子線を照射した時に靄が生じるかを検証した。また,タイタン大気中には微量のCOが存在するが,靄やアミノ酸生成時の酸素の供給源となることも考えられる。そこで,COを含む模擬タイタン大気への陽子線照射を行い,COの有無による違いを検証した。
実験 初期地球・火星大気を模したCO2, CO, N2, H2O混合気体(水5 mLも容器に封入)に,東京都市大学(TCU)のタンデム加速器からの2.0 MeV陽子線を照射した。CO2, CO, N2, H2混合気体(水なし)に理研(和光)のペレトロンからの3.0 MeV 陽子線を照射した。TCU実験では照射後,水相を取り出し,加水分解後,アミノ酸分析を行った。また。模擬タイタン大気としてCO(0-5 %)を加えたN2, CH4の混合気体(95:5)に,ペレトロンを用いて同様の照射を行った。器壁に付着した固相生成物はテトラヒドロフラン(THF), アセトニトリル(ACN), 水の順で回収し,それぞれを加水分解後,アミノ酸分析を行った。
結果と考察 水を含まないCO2, CO, N2, H2系,N2, CH4, CO系において,陽子線照射により靄の生成が認められた。このことは,初期地球やタイタン大気中でGCRやSEPにより靄が生じることを示唆する。これらの靄を回収後,加水分解することにより,種々のアミノ酸の生成が確認された。つまり,気相中で固体状(高分子態)のアミノ酸前駆体が生成したことになる。このことは,従来,惑星大気にエネルギー付与した時に生じた小分子が水に溶けた後,それらの反応(ストレッカー反応など)によりアミノ酸が生じたとする機構以外のアミノ酸生成機構が存在することを示す。模擬タイタン大気の場合,COを加えることにより水に可溶なアミノ酸前駆体が増加した。このことはタイタン地下のアンモニア水中での生命を考える上で重要な結果である。
靄の生成は,惑星の気候にも影響することが考えられる。今後,靄を構成する有機物のキャラクタリゼーションや,その役割についてさらに調べていく予定である。
本研究を行うにあたり,理化学研究所共同利用機器ペレトロン加速器を使用させていただいた。理化学研究所の東俊行博士,池田時浩博士に感謝する。
[1] Y. Ueno et al., Nat. Geosci., 17, 503-507 (2024).
[2] K. Kobayashi et al., Orig. Life Evol. Biosph., 28, 155-165 (1998).
[3] V. S. Airapetian et al., Nat. Geosci., 9, 452-455 (2016).
[4] K. Kobayashi et al., Life, 13, 1103 (2023).
[5] J. H. Waite et al., Science, 316, 870-875 (2007).
[6] T. Taniuchi et al., Anal. Sci., 29, 777-785 (2013).