日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[U-12] CO環境の生命惑星化学

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人理化学研究所)、尾崎 和海(東京工業大学)


17:15 〜 19:15

[U12-P03] 天体の表層・大気における太陽高エネルギー荷電粒子照射によるヌクレオシドの非生物合成

*深澤 こはる1木村 智樹1、福井 康祐1、吉村 弥生1 (1.東京理科大学)


キーワード:生命の起源、リボ核酸(RNA)、ヌクレオチド、非生物合成

生命誕生の過程を解明する鍵となる物質の一つにリボ核酸(RNA)があるがその起源は未解明である。特に大気や星間物質からリボ核酸の構成要素であるヌクレオチドなどの有機物が非生物的に合成されたとする仮説が提案されており[Oparin, 1924]、その検証は生命誕生の環境を知る上で重要である。ヌクレオチドはアデニン等の核酸塩基、リボース、リン酸の構成要素からなるが、それぞれ非生物合成が試みられてきた。例えば核酸塩基については、初期地球またはタイタンの初期の大気を模したガスサンプルに雷を模した火花放電や宇宙線を模した陽子、X線、電子などを入射することによる合成が確認されている[例:Ferus et al., 2017; Pilling et al., 2009]。ヌクレオチドの合成については、初期地球環境を模擬してアデニンとリボースの混合物質にリン酸もしくはエチルメタリン酸を加えた試料にUVを~10 J 照射したところ、リン酸を添加した試料ではヌクレオチドの一種であるアデノシン一リン酸(AMP)が未検出であったが、エチルメタリン酸を添加した試料で検出されたとの報告がある[Ponnamperuma et al., 1963]。宇宙空間の小天体上を模擬した実験においては、ヌクレオシドの一種であるアデノシンとリン酸二水素ナトリウムに2 MeVの陽子を照射してAMPが合成されたとの報告がある[Simakov et al., 2002]。しかし一方、アデニン、リボース、リン酸を含む化合物が実際に検出されているマーチソン隕石[例:George et al., 1992; Koga et al., 2023]では、アデノシンやAMPは検出されていない。宇宙や惑星環境におけるヌクレオチドの非生物合成の条件は、統一的な理解に至っておらず、その詳細は未解明である。

そこで本研究は、宇宙惑星環境におけるヌクレオチドの非生物合成を統一的に理解するために、アデニン・リボースに添加するリン酸化合物の種類を変えた試料を作製し、太陽高エネルギー粒子を模した水素分子イオンを照射する実験を行った。アデニン、リボース、リン酸二水素ナトリウムもしくはメチルホスホン酸をmol比1:1:1の割合で混合した粉末のサンプルに10 keVの水素分子イオンを照射した。このサンプルを水溶液化したのち高速液体クロマトグラフィー分析 (HPLC)と液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS) を行った。2つの分析の結果、照射によってリン酸二水素ナトリウムを含む試料ではアデノシンまたはその構造異性体と考えられる物質が三種類生成されたがAMPと思しき物質は検出されなかった。メチルホスホン酸を含む試料においては、リン酸二水素ナトリウムを含む試料と同じ3種類の物質に加えて未知の生成物を確認できたがAMPは確認できなかった。これはSimakov et al.[2002]においてアデノシンとリン酸二水素ナトリウムが陽子照射によりAMPが生成された結果と異なるが、陽子照射の粒子エネルギー、フラックスの違いや、材料物質にアデニンとアデノシンを用いた違いに起因すると考えられる。本研究の結果は、アデニンとリボースとリン酸塩が固体で揃い得る環境において、太陽高エネルギー粒子照射によりアデノシンまたはその構造異性体が生成される一方、AMPは生成されない可能性を提示する。今後、メチルホスホン酸を添加した試料に含まれる生成物についても同様に、LC-MSの結果に基づいて分子式を推定する予定である。またメタリン酸を添加した試料を新たに作製して同様の照射実験を行い、それぞれのリン酸化合物に対応する照射生成物を整理して比較する予定である。本発表では、研究の現状を報告する。