日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

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[U-12] CO環境の生命惑星化学

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人理化学研究所)、尾崎 和海(東京工業大学)


17:15 〜 19:15

[U12-P09] 硫化ニッケルの電気還元および部分還元体による二酸化炭素還元の分子メカニズム

*岡田 賢1小野 重明1北台 紀夫1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:第一原理計算、電気化学還元、表面構造

生命が誕生する以前の化学反応がどのように駆動していたかには諸説あるが、我々は深海熱水噴出孔周りの環境に着目した研究を行っている。深海熱水噴出孔では、硫化鉱物で構成されるチムニーの内部を、最大400℃程度に達する熱水が通過している。熱水には還元性の水素等が含まれ、これがチムニーの内壁で酸化されることで電子が生じる。発生した電子は硫化鉱物を伝いチムニー外表面まで到達し、硫化鉱物そのものや周辺の分子を還元しうる。実験室中では、heazlewoodite (Hzl, Ni3S2)の電気還元が確認され、部分的に還元された硫化鉱物(partially electroreduced to metal: PERM)を電気化学触媒とした二酸化炭素の還元やチオエステル合成、硫化鉄の電気還元によるアンモニア貯蔵などが明らかになっている[1–3]。しかしながら、実験時間や検出感度の制約などから、古海洋での反応速度や反応に必要な条件などを推定することは一般に困難である。そこで本研究では、電気化学触媒反応の反応速度や実験条件を決定するため、第一原理計算によりHzl_PERMの構造を求め、一酸化炭素の吸着挙動と二酸化炭素還元のエネルギー図を作成した。また、複数金属元素が含まれる系では反応性が変化することが知られているため、バナジウムから亜鉛までの原子でHzl中のニッケル一原子を置換した場合についても同様に調べた。
 Vienna ab-initio simulation package (VASP)を用い、PBE汎関数にファンデルワールス補正を加えたDFT-D3計算を、PAW法を用いて行った。硫黄に水素が付加したHzl清浄表面からHzl_PERMへと還元する場合、2.1 eV程度のエネルギーが必要となったが、一度硫黄原子が脱離した後にその近傍の硫黄原子を還元的脱離させる場合、必要な電位は+1.4V程度まで減少した。このことは、ヒーズルウッド鉱の格子欠陥近傍で還元反応が連続的に進行しやすく、部分的に金属化したHzl_PERMが得られることと整合的である。また、Ni-Ni原子間距離は、結晶での2.5 Åより短くなり、還元部位での最短距離は2.3 Åであった。このように近接したNi原子は反応活性であり、近接したNi原子周辺でCOやCO2の吸着がエネルギー的に最安定であった。同様な手法を用い、金属混合硫化物での反応活性を検討するため、Hzl_PERMのエネルギー最安定構造において最表面直下のNi原子をV–Znで置換した。その結果、COの吸着エネルギーは最表面直下の原子をコバルトで置換した際および最表面より2層下の原子をバナジウムで置換した際に最も高いことが明らかとなった。また、クロムや亜鉛で置換された場合、2個硫黄を脱離させた表面のほうが1個脱離させた表面よりもCOが吸着しにくいことが分かった。これらの結果は実験とも定性的に一致するものであり、従来考慮されていなかった金属の組み合わせを提案するものともなっている。
本研究は科研費JP21H04527, JP22H05153, JP23K13211の支援を受けた。計算はJAMSTECの地球シミュレータ上で行った。

[1] Kitadai, N. et al. Metals likely promoted protometabolism in early ocean alkaline hydrothermal systems. Sci. Adv. 5, (2019).
[2] Kitadai, N. et al. Thioester synthesis through geoelectrochemical CO 2 fixation on Ni sulfides. Commun Chem 4, 37 (2021).
[3] Takahagi, W. et al. Extreme accumulation of ammonia on electroreduced mackinawite: An abiotic ammonia storage mechanism in early ocean hydrothermal systems. Proc. Natl. Acad. Sci. 120, e2303302120 (2023).