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[AAS09-03] ユーラシア大陸上空の対流圏界面領域におけるCH4の変動と炭素・水素同位体比に基づいたその解釈
キーワード:methane, isotopic ratio, UT/LMS region, backward trajectory analyses
北半球高緯度域において,CH4の時空間変動およびその放出源を明らかにするために,航空機を用いたキャンペーン観測がこれまで複数回行われてきた。しかし,CH4濃度と同時にその放出・消滅過程の情報を含む炭素・水素同位体比(δ13C,δD)を対流圏界面領域(上部対流圏(UT)/成層圏最下部(LMS)領域)で系統的に観測した例はこれまでに僅かである。本研究は,2012年4月からパリ(モスクワ)-羽田(成田)間において民間航空機上で採取された大気試料を分析して,北半球高緯度域のUT/LMS領域におけるCH4濃度,δ13C,δDの時空間変動の実態を明らかにした。LMSでは, CH4濃度とδ13C,δDは明瞭な逆位相の変動を示し,CH4濃度(δ13C,δD)は11-1月に極大(極小)を,3-5月に極小(極大)を示した。この変動原因としては夏から秋にかけて低緯度側から対流圏起源の空気塊(高濃度かつ低同位体比)が流入すること、冬から春にかけてブリューワー・ドブソン循環に伴って成層圏深部起源(低濃度かつ高同位体比)の空気塊が沈降することが考えられた。客観再解析データ(ERA-Interim)を用いて後方流跡線解析を実施したところ,観測されたδ13CとδDは,観測地点における空気塊の渦位よりも,2-3週間前の空気塊地点における渦位との相関が,全ての季節について高いことが示された。このことは,各季節の中で重い同位体比を持つ空気塊は大気採取地点に対してより高高度/高緯度側に,軽い同位体比を持つ空気塊はより低高度/低緯度側に起源があることを示唆している。また,CH4濃度とδ13Cの相関を調べることにより,北半球高緯度のUT/LMS領域におけるCH4の消滅過程についての解釈を試みた。CH4濃度とδ13Cへの同位体分別効果を検討した結果,UTではCH4と水酸基ラジカル(OH)との反応による消滅が支配的である一方で,LMSではOHによる消滅に加えて,塩素ラジカル(Cl),励起酸素原子(O(1D))との消滅反応の影響を受けている可能性が示唆された。