10:15 〜 10:30
[AAS09-12] アジアモンスーン高気圧の季節内振動の浅水系による理解
キーワード:Atmospheric Dynamics, Stratosphere-Troposphere Coupling, The Asian Monsoon
アジアモンスーン高気圧(以下「高気圧」)は、夏季にアジア上空の対流圏上部・成層圏下部に卓越する、モンスーンの対流に伴う熱によって形成された惑星規模の高気圧である。近年では特に圏界面を通した輸送・混合への役割が注目されているが、それに関わる高気圧周辺の力学・物理過程についての理解は未整備である。重要なテーマの一つとして季節内変動のメカニズムがある。高気圧は主に10-20日周期の振動を示し、その中では頻繁な西向き伝播がみられる。また高気圧の位置は西アジアと東アジア上空の間を遷移する二極的な特徴が知られている。本研究の目的はこのような季節内変動の特徴を理解することである。
先行研究では高気圧の季節内変動に関して二つの対照的な観点がある。一つは対流活動の時間的変動に対して高気圧が応答しているとする見方であり、もう一つは高気圧の力学の非線形的性質により、定常な強制に対しても振動的な応答が自発的に生じうるとする見方である。後者はHsu and Plumb (2000)(以後「HP00」)の用いたモデルに基づくものであり、本研究は後者の立場をとる。
本研究ではまず、HP00の用いた無次元の浅水系モデルの結果を次元量に直し、現実的なパラメタの範囲での妥当性を検証した。モデルは一定の線形緩和を加えたβ面浅水系であり、北半球亜熱帯に定常的な正の高さ擾乱の強制を与えている。実際に現実的な緩和時間と強制中心の緯度のもとで数値計算を行い応答を調べたところ、強制の振幅の上限に関しての拡張を加えることで、HP00に示された通り応答は周期的な高気圧の伝播を示した。また、伝播速度は約10-20m/sと現実の高気圧の挙動と整合的な値であった。
次に、浅水系の妥当性を再解析データを用いて調べた。ERA-Interimの2011年から2015年までの夏季のデータを用いて、等温位面上のErtel渦位(PV)、モンゴメリー流線関数(M)、および層厚(sigma)に関して高気圧の中心経度で分類したコンポジット平均をとった。高気圧がどの経度にある場合も、360Kと365KにおいてはMとsigmaの水平構造がよく似ており、それらの中心よりやや南側にPVの低い領域の中心が位置していた。この特徴は浅水系で見られた高気圧の伝播と同様であった。
これらの温位面においてMとsigmaの構造が似ていたことは、本質的に力学が順圧的である、すなわち浅水系で近似できる可能性を示唆している。このことを定量的に調べるために、各温位面でのMとsigmaの値の散布図を作り、線形関係で近似できる場合にその一次の係数から等価深度を推定した。その結果、散布図は単一の直線ではなく、高気圧中心に近い約35°Nを境にして南北の値を別々の直線で近似するのが最も適当であることが分かった。平均的な等価深度の値は、35°Nの南側で約60m、北側で約200-300mであった。
先の浅水系モデルでは等価深度を一様としていたが、以上の結果は、実際の圏界面付近の高気圧の挙動が南北で異なる等価深度の浅水系により近いことを示唆している。そこで、強制の北側で大きな等価深度を与えた浅水系を用いて、前述の数値計算を行った。その結果、周期的な解における高気圧の経度方向の構造が大きく異なっていた。ある振幅の大きさの場合における、北側で等価深度を3倍としたときの高さ擾乱とPVの構造(図b)を、等価深度一様の場合(図a)と比較して図に示す。一様の場合と異なり、等価深度を変化させた場合は高気圧の西側への伝播が途中で止まる。時系列をみると、西側に伝播した渦(PVの低い領域)が高気圧性の回転に乗って東側に戻り、元の渦と再び一体となることが繰り返され、高さ擾乱の極大の位置は西側と東側の間を往復する。このような構造は、実際の高気圧の変動に伴う二極的な空間構造と非常によく似ている。
以上のように、本研究では、HP00の浅水系モデルを拡張することで、実際のアジアモンスーン高気圧の季節内変動の特徴である西向き伝播と二極的な経度構造の両方を現実的なパラメタのもとで再現することができた。重要なのは、このモデルで与えている強制が定常的であり、また強制以外は何ら東西構造に関する外的制約を与えていないことにある。したがってこの結果は、高気圧の季節内変動の定性的な特徴は高気圧自体の内在的なものであることを示している。定量的な観点ではもちろん、亜熱帯ジェットの強さやその惑星規模の東西構造、対流の時空間構造や陸地の影響など他の外的要因を考慮する必要がある。この研究で得られた基本的な力学の理解をもとにし、これらの要素の影響を加味した解析を行うことが、実際のアジアモンスーン高気圧の挙動の年々変動や経年変動の理解のために必要である。
先行研究では高気圧の季節内変動に関して二つの対照的な観点がある。一つは対流活動の時間的変動に対して高気圧が応答しているとする見方であり、もう一つは高気圧の力学の非線形的性質により、定常な強制に対しても振動的な応答が自発的に生じうるとする見方である。後者はHsu and Plumb (2000)(以後「HP00」)の用いたモデルに基づくものであり、本研究は後者の立場をとる。
本研究ではまず、HP00の用いた無次元の浅水系モデルの結果を次元量に直し、現実的なパラメタの範囲での妥当性を検証した。モデルは一定の線形緩和を加えたβ面浅水系であり、北半球亜熱帯に定常的な正の高さ擾乱の強制を与えている。実際に現実的な緩和時間と強制中心の緯度のもとで数値計算を行い応答を調べたところ、強制の振幅の上限に関しての拡張を加えることで、HP00に示された通り応答は周期的な高気圧の伝播を示した。また、伝播速度は約10-20m/sと現実の高気圧の挙動と整合的な値であった。
次に、浅水系の妥当性を再解析データを用いて調べた。ERA-Interimの2011年から2015年までの夏季のデータを用いて、等温位面上のErtel渦位(PV)、モンゴメリー流線関数(M)、および層厚(sigma)に関して高気圧の中心経度で分類したコンポジット平均をとった。高気圧がどの経度にある場合も、360Kと365KにおいてはMとsigmaの水平構造がよく似ており、それらの中心よりやや南側にPVの低い領域の中心が位置していた。この特徴は浅水系で見られた高気圧の伝播と同様であった。
これらの温位面においてMとsigmaの構造が似ていたことは、本質的に力学が順圧的である、すなわち浅水系で近似できる可能性を示唆している。このことを定量的に調べるために、各温位面でのMとsigmaの値の散布図を作り、線形関係で近似できる場合にその一次の係数から等価深度を推定した。その結果、散布図は単一の直線ではなく、高気圧中心に近い約35°Nを境にして南北の値を別々の直線で近似するのが最も適当であることが分かった。平均的な等価深度の値は、35°Nの南側で約60m、北側で約200-300mであった。
先の浅水系モデルでは等価深度を一様としていたが、以上の結果は、実際の圏界面付近の高気圧の挙動が南北で異なる等価深度の浅水系により近いことを示唆している。そこで、強制の北側で大きな等価深度を与えた浅水系を用いて、前述の数値計算を行った。その結果、周期的な解における高気圧の経度方向の構造が大きく異なっていた。ある振幅の大きさの場合における、北側で等価深度を3倍としたときの高さ擾乱とPVの構造(図b)を、等価深度一様の場合(図a)と比較して図に示す。一様の場合と異なり、等価深度を変化させた場合は高気圧の西側への伝播が途中で止まる。時系列をみると、西側に伝播した渦(PVの低い領域)が高気圧性の回転に乗って東側に戻り、元の渦と再び一体となることが繰り返され、高さ擾乱の極大の位置は西側と東側の間を往復する。このような構造は、実際の高気圧の変動に伴う二極的な空間構造と非常によく似ている。
以上のように、本研究では、HP00の浅水系モデルを拡張することで、実際のアジアモンスーン高気圧の季節内変動の特徴である西向き伝播と二極的な経度構造の両方を現実的なパラメタのもとで再現することができた。重要なのは、このモデルで与えている強制が定常的であり、また強制以外は何ら東西構造に関する外的制約を与えていないことにある。したがってこの結果は、高気圧の季節内変動の定性的な特徴は高気圧自体の内在的なものであることを示している。定量的な観点ではもちろん、亜熱帯ジェットの強さやその惑星規模の東西構造、対流の時空間構造や陸地の影響など他の外的要因を考慮する必要がある。この研究で得られた基本的な力学の理解をもとにし、これらの要素の影響を加味した解析を行うことが、実際のアジアモンスーン高気圧の挙動の年々変動や経年変動の理解のために必要である。