JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS09] [EE] 成層圏-対流圏相互作用 ―統一領域としての新しい視点―

2017年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:江口 菜穂(Kyushu University)、Rei Ueyama(NASA Ames Research Center)、Sean M Davis(NOAA Boulder)、Seok Woo Son(Seoul National University)

[AAS09-P07] フーリエ変換型赤外分光計(FTIR)を用いた地上観測によるつくばにおけるHCl全量の再減少

*代 友輝1村田 功1中島 英彰2森野  勇2冨川 喜弘3 (1.東北大学、2.国立環境研究所、3.国立極地研究所)

キーワード:フーリエ変換型分光計、オゾン破壊、塩化水素

東北大学と国立環境研究所では、国立環境研究所所有の高分解能フーリエ変換型赤外分光計(FTIR)を用いて、つくばにおいて1998年12月より大気微量成分の地上観測を行っている。今回報告する塩化水素(HCl)は主に成層圏に存在する。地上から排出されたフロン類などの塩素化合物は、大気循環により成層圏に運ばれたあと光解離等の化学変化を経て、普段はHClやClONO₂といったリザーバー分子として貯蓄される。南極や北極の春先に低温となり極域成層圏雲が発生することでリザーバー分子は活性なClに変換され、大規模なオゾン破壊を起こすようになる。そのためHClの大気中の存在量はオゾン層破壊における潜在的な指標のひとつである。
フロン規制以前は、成層圏大気中の塩素総量は増加傾向でありHCl全量も同様に増加していたが、フロン規制により1990年代後半から世界的に減少し始めた。しかし、Mahieu et al. [2014]ではつくばを含む FTIR観測の国際的グループNetwork for the Detection of Atmospheric Composition Change/Infrared Working Groupの8地点における1997年から2011年の期間の地上観測および人工衛星観測によるGOZCARDSデータセットにより、HCl濃度が北半球下部成層圏で2007年以降再び増加していることを発見した。さらに大気モデルと観測結果との比較により、増加の原因が北半球の大気循環の数年程度の短期的な減速であることを明らかにした。
そこで本研究は、このHClの増加が2007年以降の「数年程度の短期的な」現象であったことを明らかにするべく、2001年から2016年の期間でつくば上空におけるHCl全量を解析し経年変化を調べた。解析にはロジャーズ法を用いたスペクトルフィッティングプログラムSFIT4を使用した。 
その結果、HCl全量は2001年から2006年で減少傾向、2007年から2011年で増加傾向、2012年から2016年で再び減少傾向を示し、予測通り2007年以降の増加は短期的なものであったことがわかった。またヨーロッパ中期予報センターの再解析データ(ERA Interim)を使用し、つくばのある北緯36度における成層圏下部の残差鉛直速度の帯状平均の年々変化をみたところ、2007年から2012年にかけて下降流が強まることと、2012年以降に上昇流が強まることが確認された。HClのような主に成層圏に分布する成分は成層圏大循環により分子が輸送されるため、下降流で全量が増加し、逆に上昇流で全量が減少する。このことから、残差鉛直速度の傾向は観測結果と整合的である。しかし、HClの輸送を担う成層圏大循環の年々変化の全体像をとらえるためには、つくば上空のみではなく全球の残差鉛直速度の年々変化を調べる必要がある。