JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC38] [JJ] 雪氷学

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:縫村 崇行(千葉科学大学)、堀 雅裕(宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、座長:縫村 崇行(千葉科学大学)

16:00 〜 16:15

[ACC38-09] 山岳氷河域研究のための全球スケール無償DEMの定量評価

★招待講演

*永井 裕人1田殿 武雄1 (1.国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

キーワード:SRTM、GDEM、AW3D

航空機や人工衛星を用いた写真測量の原理による地形データの作成は、数値標高モデル(DEM: Digital Elevation Model)として近年まで様々な方法で実施され、数多くのデータセットが整備されてきた。特に人工衛星を用いたDEM作成は雪氷山岳地域において均一な地形情報を得る上で非常に重要であり、氷河研究の進展への影響も大きい。本発表では近年整備が進められてきた無償公開の全球スケールDEMを日本国内の起伏の異なる地形およびヒマラヤ氷河域で比較し,生じる差異を検証し、山岳氷河研究での有効性を議論する。
様々なDEMデータセットのうち、最近になって画素サイズ30 mのASTER GDEM,SRTM1,ALOS World 3D-30m(AW3D30)が整備された。これらの標高データについて国土地理院・基盤地図情報から三角点・測量点(CP: Check Point)の標高値を取得し、精度評価を北アルプスの氷河地形、富士山裾野、利根川流域の沖積平野にて実施した。The
その結果、どの場所においてもAW3D30が地理院CPに近い値を示すことが分かった。DEM間でもっともばらつきが大きいのが北アルプスであり、ASTER GDEM,SRTM1について13‐18 mほどCPより低く、ばらつき(CP値とDEM値の差分の標準偏差)は15‐20 mとなった。起伏が緩やかな地形ほど、DEMによる精度の差異は小さくなり、利根川流域のほぼフラットな水田地帯ではSRTM1とAW3D30がほぼ等しい精度となった(+0.1±3.1 m)。ASTER GDEMにおいてもCP標高値との差の平均および標準偏差はともに5 m以下であった。このようにDEMが異なれば、地形によって精度が大きく異なることが示された。AW3D30が北アルプスの急峻地形においても最も高精度であるが、より平坦な地形ではSRTM1の精度も大きく改善されることがわかった。
DEM作成ではステレオペア画像間で対応点の取得が十分にできない部分で欠損が生じる。欠損そのものは有益ではないが、どこにどのように欠損が生じるかは、研究に最も適したDEMを選ぶ際に重要な知見となる。そこでネパールヒマラヤにおいて,上記三種DEMの欠損がどのように生じているかを検証した。AW3D30の欠損はヒマラヤ主脈周辺で多く見られた。これはALOS衛星の光学画像によって取得されたため、山頂付近・氷河涵養域では積雪によって上手く対応点をマッチングできないことが原因と考えられる。SRTM1では、より低標高で斜度45°付近に最も欠損が集中していることが分かった。軌道横方向斜め下にレーダを照射して地形計測を行うため、急峻な山に妨げられるシャドーイングやレイオーバー(近くの谷より遠くの山の方が先に電波を反射することに起因する受信順序の反転)が原因と考えられる。一方、最も長期にわたる観測データから作成されたASTER GDEMでは対象地域内に欠損は見られなかった。精度は高くないが、集水域の作成など、抜け目のないデータが必要となる際に有用なDEMであると言える。