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[ACG44-02] チャオプラヤ流域の土地利用変化が陸域水収支に及ぼす影響
キーワード:Land-use change, Terrestrial water balance, Chao Phraya river basin
チャオプラヤ川上流域の山岳地帯では、近年、森林伐採が進んでおり、これによる洪水の増加が懸念されている。これに対し、植林を進めることによって土壌の保水能力を高め、流出応答をゆっくりにする効果で洪水を抑制できるのではないかという期待がある。一方で、実際に植林を進めようとした場合、陸域水収支や水資源・水利用の観点に加えて、収入源となる耕作地の減少によって社会経済的な影響なども与える可能性があり、慎重な影響評価が必要である。これまで当地域では、ダムなど人間活動による水利用を考慮した全球水資源モデルH08(Hanasaki et al., 2008ab)による水資源と陸域水収支の評価が行われているが、陸面水文過程にはバケツモデルが用いられており、土地利用変化(植生変化)を陽に扱うことができなかった。そこで本研究では、植生を陽に扱っている陸面水文過程モデルMATSIRO(Takata et al., 2003; Nitta et al., 2014)を用いて、チャオプラヤ川流域における植生変化が陸域水収支に及ぼす影響について調べる。具体的には、MATSIROに地上気象データ与えて、植生分布を変えた数値実験を行い、土地利用変化の影響を評価する。予備実験として、水平解像度約100kmで、1979年1月1日から2007年12月31日の全球地上気象データ(Kim et al., 2009)を与え、現在の植生分布(図)を与えた実験(CTL)と、自然植生(常緑広葉樹林、混合林、草地)を耕作地に変えた実験(CROP)を行い、チャオプラヤ流域での河川流量の変化を調べた。
流域北西部のBhumibolダムや流域北東部のSirikitダムに流入する河川流量の観測値と数値実験の河川流量を比較したところ、流域北西部(Bhumibolダム)では7月から10月に流量が増大する季節変化は定性的に再現されていたものの、5月-6月の降雨に対応した流出が表現されなかった。また、流域北東部(Sirikitダム)では流出の起こる期間が8月に集中し、7月から徐々に増加して9月に徐々に減少する様子が再現されなかった。さらに、年間の河川流量はどちらも観測の数分の1に過小評価されていた。土地利用変化に対する応答について、常緑広葉樹林から耕作地に転換したチャオプラヤ流域北西部では、森林のほうが耕地よりも河川流出の開始時期が遅く、また年間の河川流量が小さくなり、森林による洪水の緩和を示唆する結果となった。一方で、混合林から耕作地に転換したチャオプラヤ流域北東部では、森林と耕地の場合で河川流出の開始時期はほとんど変わらず、年間の河川流量は森林のほうが大きかった。
今後、チャオプラヤ流域における水平解像度約10kmの気象データ(Kotsuki et al., 2013)を用いた高解像の数値実験を行い、観測された河川流量変化や年間流量の再現性を向上するとともに、植生タイプによって耕地化した時に応答が異なる原因や、土地利用変化が陸域水収支と河川流量に及ぼす影響についてメカニズム解明と定量評価を進める。
謝辞:東京大学の新田友子博士と理化学研究所の小槻峻司博士には、MATSIROオフライン実験の実行に当たってご協力いただいた。本研究は科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の支援を受けて実施している。
参考文献:
Hanasaki, N., et al., Hydrology and Earth System Sciences, 12, 1007-1025, 2008a.
Hanasaki, N., et al., Hydrology and Earth System Sciences, 12, 1027-1037, 2008b.
Takata, K., et al., Global and Planetary Change, 38, 209-222, 2003.
Nitta, T., et al., J. Clim., 27(9), pp3318-3330, 2014.
Kim, H., et al., Res. Lett., 36, L17402, 2009.
Kotsuki, S., et al., Hydrolog. Res. Lett., 7, 7984, 2013.
流域北西部のBhumibolダムや流域北東部のSirikitダムに流入する河川流量の観測値と数値実験の河川流量を比較したところ、流域北西部(Bhumibolダム)では7月から10月に流量が増大する季節変化は定性的に再現されていたものの、5月-6月の降雨に対応した流出が表現されなかった。また、流域北東部(Sirikitダム)では流出の起こる期間が8月に集中し、7月から徐々に増加して9月に徐々に減少する様子が再現されなかった。さらに、年間の河川流量はどちらも観測の数分の1に過小評価されていた。土地利用変化に対する応答について、常緑広葉樹林から耕作地に転換したチャオプラヤ流域北西部では、森林のほうが耕地よりも河川流出の開始時期が遅く、また年間の河川流量が小さくなり、森林による洪水の緩和を示唆する結果となった。一方で、混合林から耕作地に転換したチャオプラヤ流域北東部では、森林と耕地の場合で河川流出の開始時期はほとんど変わらず、年間の河川流量は森林のほうが大きかった。
今後、チャオプラヤ流域における水平解像度約10kmの気象データ(Kotsuki et al., 2013)を用いた高解像の数値実験を行い、観測された河川流量変化や年間流量の再現性を向上するとともに、植生タイプによって耕地化した時に応答が異なる原因や、土地利用変化が陸域水収支と河川流量に及ぼす影響についてメカニズム解明と定量評価を進める。
謝辞:東京大学の新田友子博士と理化学研究所の小槻峻司博士には、MATSIROオフライン実験の実行に当たってご協力いただいた。本研究は科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)による地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の支援を受けて実施している。
参考文献:
Hanasaki, N., et al., Hydrology and Earth System Sciences, 12, 1007-1025, 2008a.
Hanasaki, N., et al., Hydrology and Earth System Sciences, 12, 1027-1037, 2008b.
Takata, K., et al., Global and Planetary Change, 38, 209-222, 2003.
Nitta, T., et al., J. Clim., 27(9), pp3318-3330, 2014.
Kim, H., et al., Res. Lett., 36, L17402, 2009.
Kotsuki, S., et al., Hydrolog. Res. Lett., 7, 7984, 2013.