JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG47] [EJ] 陸域生態系の物質循環

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 303 (国際会議場 3F)

コンビーナ:加藤 知道(北海道大学農学研究院)、平野 高司(北海道大学大学院農学研究院)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野)、平田 竜一(国立環境研究所)、座長:佐藤 永(海洋研究開発機構)

14:00 〜 14:15

[ACG47-12] 二酸化炭素輸送計算のための陸域生態系炭素収支モデルコンポーネントの作成

*今須 良一1伊藤 聡士1近藤 裕昭2 (1.東京大学大気海洋研究所、2.産業技術総合研究所)

キーワード:二酸化炭素、総一次生産量、BEAMS

近年、多数の温室効果ガス観測衛星が打ち上げられ、インバージョン解析による大都市からのCO2発生量の推定に関する研究が盛んになってきている。そのデータ解析には、CO2の輸送計算を行うための領域モデルが不可欠で有り、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)のデータを用いた関東地域におけるCO2輸送計算には、産業技術総合研究所で開発された領域輸送モデルAIST-MM (Kondo et al., 2001) が用いられている。しかし、このモデルは、元々大気汚染質の輸送計算用に開発されたものであることから、陸域生態系の影響を十分反映するよう設計されていない。特に、植物による光合成と植物、土壌による呼吸については、植生タイプごとに決まった固定値を用いるなど、陸域生態系からのCO2の発生、吸収量の計算精度が十分とは言えない。観測値と比較すると、冬季のCO2濃度の計算値は、観測値と比較的合うものの、夏季には夜間の呼吸量と日中の光合成量が共に過大評価されていることが分かる。そのため、対象地域における実際の植生分布や植生の活動度を反映できる陸域生態系の炭素収支モデルの組み込みが不可欠である。そこで、本研究では、衛星データに基づく日単位の植生の変化や、日射量の時間変化なども明示的に取り込める陸域生態系モデルであるBEAMS(Sasai et al., 2005; 2011)の基本アルゴリズムを用い、総一次生産量(GPP)を求める計算コンポーネントを作成した。基本的な入力データは、気象データ、土地被覆分類、光合成有効放射量(PAR)、光合成有効放射吸収率(fPAR)である。このうち、気象データは気象庁のGPV-MSM、土地被覆分類はMODISのレベル3(MCD12Q1)、fPARはMODISのレベル4 (MCD15A3H)、PARはJAXA Satellite Monitoring for Environmental Studies (JASMES) を、つくばにおける地上観測値で規格化し、そのスケーリングファクターを全地域に当てはめた。その上で、太陽高度の時間変化を考慮して、それぞれの地点におけるPARの日変化を計算した。この値を元に、計算の空間分解能はMODISデータに合わせ500m、時間分解能は気象データに合わせ1時間とした。計算された結果は、森林総合研究所フラックス観測ネットワーク(FFPRI FluxNet)のデータと比較した。山城、富士吉田、川越における比較では、AIST-MM中のオリジナルの計算コンポーネントによるGPP計算の過大評価が大幅に改善され、年間総量でも20%程度の範囲で一致した。また、季節変化だけでなく、数日スケール(シノプティックスケール)の変化の再現性も良く、時間分解能の高い領域輸送モデルへの組み込みが可能なレベルになったと言える。次のステップとして、これらの時空間分解能での表現が可能な、植物呼吸や土壌呼吸の計算コンポーネントの作成に着手したい。