JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG48] [EJ] 北極域の科学

2017年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:森 正人(東京大学先端科学技術研究センター)、津滝 俊(宇宙航空研究開発機構)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、漢那 直也(北海道大学 北極域研究センター)、座長:深町 康(北海道大学低温科学研究所)、座長:鄭 俊介(北海道大学 北極域研究センター、北海道大学 北極域研究センター)

12:00 〜 12:15

[ACG48-12] 永久凍土不可逆融解による温室効果ガス放出量の現状評価と将来予測

*斉藤 和之1大野 浩2横畠 徳太3岩花 剛4町屋 広和1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.北見工業大学、3.国立環境研究所、4.アラスカ大学フェアバンクス)

キーワード:高含氷永久凍土融解、メタン、気候変動、ティッピング・ポイント

永久凍土は有機炭素の巨大な貯蔵庫(全球地下有機炭素量の約半量)であり、地球温暖化により融解とそれに伴う有機炭素の放出が進行していると考えられるが,その変動機構やハザード分布などの実態解明は不十分で、気候変動予測モデルへの組み込みは遅れている。また炭素循環における大きな不確定要素として永久凍土の変動を理解することの重要性が認識されている一方で、現状把握を含むその詳細な知見は充分ではない.高含氷な永久凍土の融解によって生じるサーモカルストとは比高60mにも達する地盤陥没を引き起こす現象であり,このような現在進行中の大規模かつ不可逆的な沈下は地形・土地被覆変化を通して北極陸域の社会や生態系に直接の影響を及ぼしている。さらに地下氷や凍結堆積土中に閉じ込められていた温室効果ガス(特にメタン)の放出や有機炭素の分解により,温暖化が加速される可能性も指摘されている.本研究(環境省「環境研究総合推進費」2-1605. H28-30)では、サーモカルストによる永久凍土の不可逆的な融解による温室効果ガス放出量の現状評価と将来予測について現地調査や衛星データ解析,また数値モデル等を有機的に組み合わせて行い,当該過程に関する脆弱性分布や気候変動に対する相対的な寄与を解明することを目標としている。

H28年度は、地下氷と有機炭素を大量に含む永久凍土が広く分布するアラスカと北東シベリアを対象に、永久凍土融解過程の現状を把握するために衛星画像解析と現地調査を行った。また、現地で採取した氷および土壌のコア分析を行い,融解前の永久凍土が含有する有機炭素(メタン)量とその分布について解析した。その結果,試料100g中のガス含有量は数ccで地域間での差異は少ない一方で,地下氷気泡中のメタン濃度は大気中濃度(約2ppm)と同程度から数万倍のものまで大きな幅があった.周囲の土壌のメタン含有量も同程度であった.また,メタンの安定同位体組成は,土壌・地下氷コア中のメタンが概ね微生物起源であることを示唆する結果であった.本報告では,これらの現地調査・分析結果を提示するとともに、含有地下氷・有機炭素の分布を組み込んで不可逆的な永久凍土融解から放出されるGHGが全球に及ぼす影響の寄与を評価する試みについて現状と計画を述べる。