JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG48] [EJ] 北極域の科学

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:森 正人(東京大学先端科学技術研究センター)、津滝 俊(宇宙航空研究開発機構)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、漢那 直也(北海道大学 北極域研究センター)、座長:森 正人(東京大学 先端科学技術研究センター)、座長:津滝 俊(宇宙航空研究開発機構、宇宙航空研究開発機構)

14:45 〜 15:00

[ACG48-17] Sr-Nd同位体比から明らかになったグリーンランド西部沿岸域の氷河上クリオコナイトに含まれる鉱物の起源

*永塚 尚子1竹内 望2植竹 淳1島田 利元3大沼 友貴彦4田中 聡太2中野 孝教5 (1.国立極地研究所、2.千葉大学、3.JAXA、4.東京大学、5.早稲田大学)

キーワード:グリーンランド、氷河暗色化、Sr-Nd同位体比、鉱物起源

近年,グリーンランドの氷河において急速な表面の暗色化が報告されている.暗色化に伴う雪表面アルベドの低下は,氷河の質量収支に影響を与えていることが明らかになっており,近年の北極域の氷河氷床の縮小は単に温暖化による気温上昇だけでなく表面の暗色化の影響も受けている可能性がある.この暗色化の主な要因として,氷河上に堆積する暗色の不純物,クリオコナイト(鉱物粒子と有機物)の堆積量の増加が考えられているが,その起源や輸送過程について明らかにした例はほとんどなく,増加のメカニズムについてもわかっていない.本研究では,地球化学的な物質循環トレーサーであるSr-Nd同位体比を用いて,グリーンランド西部の複数の氷河暗色域表面に堆積するクリオコナイトを分析し,含まれる鉱物粒子の起源を明らかにすることを目的とした.グリーンランド氷床上の鉱物の起源としては,1. モレーンやツンドラなどの氷河周辺堆積物,2. 氷体内ダスト(過去に氷河上流域に堆積した鉱物粒子が氷体内を取って下流へと運ばれ,表面に露出したもの),3. 遠方の砂漠からの長距離輸送ダストの3つの可能性が先行研究で示されていることから,これらの堆積物のSr-Nd同位体比と比較することで暗色域の鉱物の起源を推定した.
鉱物の同位体比は,氷河の地理的位置によって大きく異なる値を示した.北に位置する氷河では Sr が高く,反対に南に位置する氷河では低い値を示した.このことは,各氷河上の鉱物の起源が地域によって異なることを示している.しかしながら,この値を各地の堆積物の値と比較すると,同位体比はいずれの氷河においても氷河周辺に堆積するモレーンおよび氷体内ダストに比較的近い値を示し,アジアやアフリカなどの乾燥域の砂漠とは著しく異なる低い Nd 比を示した.このことから,各氷河のクリオコナイトに含まれる鉱物は,遠方の砂漠から供給された風成塵ではなく,主にそれそれの氷河周辺から供給されたものであることがわかった.地域による同位体比の違いは,各氷河周辺地域の地質条件を反映していると考えられる.
同位体比は1つの氷河内でも標高によって異なる値を示した.これは,氷河上の鉱物粒子がただ1つの起源から供給されているわけではなく,複数の起源から供給されていることを示している.北部のカナック氷河では,上流域は氷河周辺のモレーンに近い値を示したのに対し,中流域は氷体内ダストに近くなった.カナック氷河の中流域には他の地点に比べて鉱物粒子が多く堆積しており,表面に黒い縞状の模様を形成していることから,カナック氷河では氷体内ダストの供給が表面の暗色域形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆された.また,南部のラッセル氷河では,下流域の更新世の氷表面と中上流域の完新世の氷表面に堆積する鉱物の同位体比が大きく異なったことから,この2つの時代で鉱物が異なる起源から供給されていた可能性が示唆された.