JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG48] [EJ] 北極域の科学

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:森 正人(東京大学先端科学技術研究センター)、津滝 俊(宇宙航空研究開発機構)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、漢那 直也(北海道大学 北極域研究センター)、座長:森 正人(東京大学 先端科学技術研究センター)、座長:津滝 俊(宇宙航空研究開発機構、宇宙航空研究開発機構)

15:00 〜 15:15

[ACG48-18] グリーンランド北西部カナックで発生した氷河融解水による洪水の表面質量収支モデルによる検証

*榊原 大貴1,2庭野 匡思3杉山 慎2 (1.北海道大学北極域研究センター、2.北海道大学低温科学研究所、3.気象研究所気候研究部)

キーワード:グリーンランド、氷河、表面質量収支モデル、洪水

海水準上昇への寄与といったグリーンランド氷床変動の全球的な影響については,これまでに数多くの研究がなされてきた.しかしながら,グリーンランド氷床の変化がそこに住む人々の生活に与える影響についてはあまり着目されていない現状にある.グリーンランド北西部に位置するカナック村は人口約500人の集落であり,これまでGRENE北極気候変動事業およびArCS北極域研究推進プロジェクトで氷床観測の拠点となってきた.このカナック村では2015年7月21日と2016年8月3日に洪水が発生し,集落と空港とを結ぶ道路が流出した.この洪水は村の北側に位置するカナック氷帽からの流出水によって発生したものである.過去にも数年に一度同様の災害が発生しているが,2016年の洪水は特に大規模なものであった.この洪水災害は北極域における氷河氷床の変化がその地域の人々の生活に影響を与えた事例のひとつである.
そこで本研究では,2015年と2016年にカナック村で発生した洪水災害の検証を行った.カナック氷帽からの流出水量の推定には表面質量収支モデルNHM-SMAP(Niwano et al., 2012, 2014)の5 kmグリッドの出力結果を使用した.その出力結果をNoël et al. (2016)の方法により融解量の標高依存性を考慮して,300 mグリッド上に統計的にダウンスケーリングした.ダウンスケーリングにはByrd Polar and Climate Research Centerが公開している数値標高モデルと氷河領域マスクを使用した(Howat et al., 2014).はじめにダウンスケーリングされた出力結果と2012–2016年にカナック氷河で観測した表面質量収支との比較を行った.続いてダウンスケーリングされた流出水量についてカナック氷帽での総和を計算することで総流出水量を推定した.
解析の結果,どちらの事例においても洪水の発生当日もしくは前日に顕著な流出水量が推定された.2015年の洪水当日にあたる7月21日には,その夏で2番目に大きな流出水量が推定された.洪水当日から2日後の23日までは,その夏に最も高い日平均気温が観測された.洪水当日には高標高域において,その夏で最大となる融解量が計算されていた.しかし,それ以降は顕著な融解量は計算されていなかった.2016年の洪水前日にあたる8月2日には,その夏で3番目に大きな流出水量が推定された.この日はどの標高帯においても,その夏で最大となる降水量が計算されていた.以上の解析から,2015年の洪水は顕著な融解が,2016年は多量の降水が洪水を引き起こしたことが示唆された.どちらの事例でも融解期の終わりに洪水が発生していたことが判明した.