JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG50] [JJ] 沿岸海洋生態系──2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 301A (国際会議場 3F)

コンビーナ:宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、梅澤 有(長崎大学)、渡邉 敦(東京工業大学 環境・社会理工学院)、座長:田中 義幸(八戸工業大学 基礎教育研究センター)、座長:梅澤 有(長崎大学)

15:30 〜 15:50

[ACG50-06] 造礁サンゴの遺伝学的解析による種分化とコネクティビティ解析

★招待講演

*安田 仁奈1 (1.宮崎大学)

キーワード:サンゴ礁、コネクティビティ、遺伝子流動

高い生物多様性を有すサンゴ礁生態系は、気候変動に最も脆弱な生態系のひとつであり、現在世界中のサンゴ礁生態系は衰退傾向にある。日本国内では、最大のサンゴ礁海域である石西礁湖において、2016年に高水温により約7割のサンゴが白化し、保全策の検討が急務となっている。一方で、温帯域では海水温の上昇に伴い、亜熱帯域で絶滅危惧種として認定された造礁サンゴ複数種の生息分布域が北上していることが報告されている (Yamano et al 2011)。そのため、温帯域が亜熱帯域で危機的にあるサンゴの避難所として期待されている。しかし、北上したサンゴの北限分布域周辺の集団は、遺伝的多様性が低く、他海域からの加入量が限定されている場合、絶滅と加入を繰り返す不安定な集団である可能性もある。そのため、北上集団の遺伝的多様性や、幼生分散を通じた周辺集団との連結性を明らかにすることは、避難所としての機能役割を明らかにする上でも重要である。そこで本研究では、①サンゴの衰退が深刻である石西礁湖周辺の海域で回復に重要な幼生分散で繫がる集団同士を同定するため、および②分布北限域に新たに出現した集団の遺伝的安定性を調べ、避難所としての役割を明らかにするために、亜熱帯域でから温帯域まで幅広く分布している普通種であり、過去80年において北上しているクシハダミドリイシ、および熱帯・亜熱帯種であり近年北上が確認されたアオサンゴを対象とし、石西礁湖周辺海域および黒潮に沿った亜熱帯から温帯にわたる集団について高度多型遺伝子マーカー遺伝子座を用いた集団遺伝解析を行った。
アオサンゴでは、ベイズ法を用いたクラスタリング解析および核のITS2領域において、隠蔽的な種分化が起きていることが分かった。推定された2種(HC-AおよびHC-B)のうちHC-Bはサンゴ礁内のより温暖な環境を好み、もう片方のHC-Aは外洋に面したスロープなどの流速が早く、海水温が相対的に低い環境を好んでいた。2種は産卵期が約1ヶ月ずれているために同所的な海域でも交雑が限定されていることが分かった。個々の種内の遺伝子流動は非常に限られており、石西礁湖周辺海域では、石垣島の南西の海域を除き、ほとんどの集団間で集団が有意に分化しており、アオサンゴの短い幼生分散期間に起因すると考えられた。HC-Aは1990年代に初めて屋久島で最北限に分布する群体が3群体のみ見つかった。
クシハダミドリイシでは既存研究により、種内で異なる遺伝的クレードが存在していることが確認されている(Launder and Pulmbi 2012, Suzuki et al. 2016)。そのため、まず、日本国内の黒潮流域に存在する隠蔽的遺伝クレードの分布を明らかにした。ベイズ法を用いたクラスタリング解析により、クシハダミドリイシの遺伝的クレードの推定を行った結果、本解析では3つの遺伝的クレードが確認され、そのうちのひとつが温帯域まで分布していた。そのため、1つの系統については、温帯域が避難所となり得ることが示唆された。一方、屋久島以南と以北では遺伝分化係数が大きいため、直接の亜熱帯域から熱帯域への加入はあまり多くないと考えられた。石西礁湖内には、異なる2系統が存在することが確認された。石西礁湖周辺ではどちらの系統内でも、有意な遺伝分化係数を持っており、弱い遺伝構造をもつことが確認された。それぞれの系統で遺伝障壁を調べたところ、石垣島と石西礁湖の間および西表島南部の東西で両系統ともに遺伝障壁が現れたため、これらの海域を個々に保全することが有効であると考えられた。黒潮に沿った温帯域まで含む集団では、屋久島以北の集団は屋久島以南の集団よりも遺伝的多様性が低いこと、さらに過去40年で北上が認識された集団の遺伝的多様性は他の温帯域の集団よりも低く、環境変化に対しやや脆弱性を秘めている可能性が示唆された。一方ボトルネック検定では全ての集団において有意にならず、一度北上して加入してからは比較的安定した再生産を繰り返していることが示唆された。また比較的最近に北上してできた五島列島の集団は、周辺海域からの幼生加入の可能性が低く、クローン率も高いことから、太平洋側で北上しているが周辺集団と遺伝的組成の近い式根島よりも、地域絶滅した場合の回復には長い時間を要する可能性があると考えられた。