JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG52] [JJ] 植物プランクトン増殖に関わる海洋-大気間の生物地球化学

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:西岡 純(北海道大学低温科学研究所)、鈴木 光次(北海道大学)、宮崎 雄三(北海道大学低温科学研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、座長:宮崎 雄三(北海道大学低温科学研究所)、座長:谷本 浩志(国立環境研究所)

11:00 〜 11:15

[ACG52-08] 親潮域におけるジメチルスルフォニオプロピオネート代謝細菌群の動態

崔 英順1,2鈴木 翔太郎1金子 亮1,3黄 淑郡1、*浜崎 恒二1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.韓国生命工学研究院、3.岡山大学大学院環境生命科学研究科)

キーワード:親潮、ジメチルスルフォニオプロピオネート、細菌

海洋細菌群集は,植物プランクトンによって生成される有機硫黄化合物ジメチルスルフォニオプロピオネート(DMSP)の代謝分解や硫化ジメチル(DMS)への酵素変換を通じて,海洋表層の硫黄循環や大気への二次生成エアロゾル供給に影響を及ぼしている。また,DMSは様々な海産動物に対するシグナリング物質として作用することも報告されていることから,細菌群集によるDMS生成過程の解明は海洋生態系における生物間相互作用の理解という点からも重要と考えられる。現在、DMSPの細菌代謝については3つの主要経路が知られており,これらの代謝を行う細菌種の変動がDMS生成量の変動を左右していると考えられる.このうち,DMSPリアーゼによるDMSとアクリル酸への直接的開裂,アシルコエンザイムとの結合を経て3ヒドロキシプロピオン酸(3-HP)とDMSへ開裂する二次的変換はDMS生成ソースとなり,脱メチル化によりメチルメルカプトプロピオン酸(MMPA)やメチオニンに変換される経路はDMSPシンクとなる.そこで本研究では,DMSP代謝に関わる主要遺伝子のコピー数を指標として,様々な海域におけるDMSP代謝細菌群の分布と現存量を調べ,これらを規定する環境要因やDMS生成量との関係を明らかにすることを目的とした.本発表では,沿岸親潮域における春季ブルーム観測で得られた成果を中心に報告する.海水試料は,2015年3月のKH-15-1白鳳丸航海において,北海道東方沖17観測点,表層とクロロフィル極大層の2層から採集した.海水を孔径3.0と0.22μmのフィルターによって連続濾過し分析まで-20℃に保存した.フィルターからDNAを抽出し,リアルタイムPCR法を用いてDMSPリアーゼ遺伝子のdddPdddD,DMSP脱メチル化酵素遺伝子のdmdA,細菌数の指標として16S rRNA遺伝子のコピー数を定量した.dmdAは細菌種による配列の違いがあるため,7タイプに分けて定量した.また,16S rRNA遺伝子についてPCR増幅産物の配列解析も行い,各サンプルの細菌群集構造を決定した.解析の結果,dddPdddDに加えて,7タイプのdmdAのうちC/2およびD/1クレードの2タイプが調査海域の主要なDMSP代謝遺伝子として検出された.沖合の親潮域では,ほとんどの観測点でdmdAのコピー数が,dddPあるいはdddDより多いのに対して,岸に近い沿岸親潮域ではdddPあるいはdddDのコピー数が,dmdAより多い傾向にあった.今回検出されたdmdAのコピー数は約103-104 copies/mlで,既往研究や我々が太平洋熱帯・亜熱帯域,東北沖で行った同様の解析で得た値(約104-105 copies/ml)と比べて一桁以上少ない値であった.主に検出されたdmdA C/2およびD/1クレードは,海洋で最も優占するPelagibacter(SAR11)グループのうちそれぞれ1bおよび1aサブクレードが持つ遺伝子であることから,本調査海域にはこれらの細菌グループの割合が比較的少なかったと考えられる.一方,DMSPリアーゼ遺伝子のdddPdddDについては,既往研究ではdddPが海洋における主要なDMS生成遺伝子とされてきたが,本研究によってdddDが主要な海域もあることが示された.東北沖の観測でも同様の傾向が見られており,dddDをDMSPリアーゼ遺伝子として持つ細菌が特に多いことが親潮域の特徴と考えられる.さらに,今回得られたdddDのシーケンスを行い,既往の配列と系統解析を行った結果,Gammaproteobacteria綱のPorticoccus属(SAR92)のdddDに近縁であることが示された.以上本研究によって,沿岸親潮域や親潮域では既往研究とは異なるDMSP代謝細菌の群集構造が見られることが分かった.今後,これらの結果と同時に行ったDMSP及びDMS濃度測定の結果を比較することにより,本調査海域において見られたDMSPリアーゼ遺伝子のタイプの違いやDMSP脱メチル化酵素遺伝子が他の海域に比べて少ないことが, DMSPの消長やDMS生成にどのように影響するのかを明らかにすることが期待される.