[AHW34-P10] 印旛沼流域における窒素負荷量の再検討
キーワード:窒素循環、原単位、脱窒
1.はじめに
地球規模の窒素過多・窒素飽和により、人類に与える影響として最も深刻な環境要素の1つに窒素循環が挙げられている¹⁾。窒素循環の不健全化が引き起こす問題として閉鎖性水域の富栄養化問題があるが、日本では湖沼法のもとで湖沼水質保全計画を策定し、水質改善を図っている。千葉県の印旛沼は指定湖沼の一つであり、過去30年以上にわたり、水質改善の取り組みが行われている.印旛沼湖沼水質保全計画では原単位を使用した発生汚濁負荷量の算定が行われているが、印旛沼への窒素負荷量は土地利用の変化や下水道普及率の上昇に伴い、年々減少傾向にあるとされている.それにも関わらず印旛沼の全窒素濃度は、環境基準を超過したまま下げ止まりの状況が続いている。個々の土地利用、水処理形態に対応する原単位は過去に設定された値が継続して使われてきたが、過去30年間で変化した社会のあり方、調査研究の進展、等を鑑みて原単位を再評価する必要性があると考えられる。これを受けて、藤村(2015)では原単位に関する検討が行われ、一部の項目で新たな値が提案された²⁾.そこで本研究では、湖沼水質保全計画で使われている原単位と藤村(2015)による原単位を用いて、印旛沼流域の窒素負荷量分布図を作成し、比較することにより原単位に関する検討を行った。
2.研究手法
印旛沼流域を、行政界と流入河川ごとの集水域で分割した区画ごとに、原単位に2010年の統計データを掛けることで、区画ごとに窒素負荷量を算出した.この統計データは千葉県環境生活部水質保全課から提供していただいた。窒素負荷量は、宅地からの生活系負荷量、家畜からの畜産系負荷量、山林や畑地などの面源汚濁負荷である自然系負荷量、事業場からの事業場系負荷量に分類できる.これらの分類した窒素負荷量を、印旛沼流域水循環健全化会議によって作成された2007年の土地利用図の土地分類ごとに、生活系負荷量は宅地に、畜産系負荷量は畑に、事業場系負荷量は市街地に、自然系負荷量は山林や畑地などの土地分類ごとに割り当てた.その後、流域の負荷量データの精度及び分割後の総メッシュ数を勘案し、250mメッシュに分割することで窒素負荷量分布図を作成した.得られた負荷量の妥当性を検討するために、全窒素濃度の水質測定地点を流出口とする集水域を設定し、その集水域における窒素負荷量と流出口における実測の窒素流出量を比較した.窒素流出量は、千葉県環境生活部水質保全課の観測による全窒素濃度と、印旛沼流域水循環健全化会議の観測による河川の流量から算出した.
3.結果・考察
印旛沼流域の各集水域の窒素負荷量と窒素流出量との相関関係をもとに、回帰モデルを導くと、両者の間に良好な直線関係が示され、集水域における窒素負荷が河川の窒素流出量を増加させていることが示された.湖沼水質保全計画の原単位を使用した場合、回帰直線の傾きは1.40となり、窒素流出量が窒素負荷量を大きく上回ったことから、窒素負荷量を大きく過小評価している可能性がある。一方、藤村(2015)による提案原単位を使用した場合、傾きは1.09となり、窒素負荷量が窒素流出量とほぼ釣り合う結果となった.しかし、現実の流出過程では、脱窒過程により負荷された窒素は減少すると考えられるため、窒素流出量が窒素負荷量を上回ることは考え難く、提案原単位においても窒素負荷量を過小評価している可能性がある。また、本研究で使用した窒素流出量は平水時の観測値から算出したものであり、降雨時のファーストフラッシュによる窒素流出量が考慮されていない。よって、湖沼水質保全計画の原単位はもとより、提案原単位においてもその値は過小評価されている可能性がある。
流域における窒素負荷量を正確に算定することは印旛沼の水質改善のための基本的なアクションである。今後は調査研究を推進することにより、水循環・窒素循環の実態に即した原単位の算定を行う必要がある。最終的には物理性に基づいたプロセス指向の水・物資循環モデルにより定量的な窒素循環の認識が望ましいが、流域の多様性、物理プロセスの複雑さに起因する解決すべき課題が多く残されている。降雨時の窒素流出量の観測、窒素流出量の季節変化に関する検討、等の課題を解決しながらより実態に合った原単位を求めることにより、印旛沼への窒素負荷量の精度を高めていく予定である。
謝辞
千葉県環境生活部水質保全課には貴重な資料の提供を頂いた。また、印旛沼流域圏交流会の方々から貴重なご意見を頂いたことに感謝の意を表します。
参考文献
1)Steffen,W.,Richardson,K.,Rockström,J.,2015,Planetary Boundaries:Guiding Human Development on a Changing Planet.Science,347(6223).
2)藤村葉子,2015,印旛沼・手賀沼の湖沼水質保全計画における面源負荷原単位の現状と課題について.第18回日本水環境学会シンポジウム.
地球規模の窒素過多・窒素飽和により、人類に与える影響として最も深刻な環境要素の1つに窒素循環が挙げられている¹⁾。窒素循環の不健全化が引き起こす問題として閉鎖性水域の富栄養化問題があるが、日本では湖沼法のもとで湖沼水質保全計画を策定し、水質改善を図っている。千葉県の印旛沼は指定湖沼の一つであり、過去30年以上にわたり、水質改善の取り組みが行われている.印旛沼湖沼水質保全計画では原単位を使用した発生汚濁負荷量の算定が行われているが、印旛沼への窒素負荷量は土地利用の変化や下水道普及率の上昇に伴い、年々減少傾向にあるとされている.それにも関わらず印旛沼の全窒素濃度は、環境基準を超過したまま下げ止まりの状況が続いている。個々の土地利用、水処理形態に対応する原単位は過去に設定された値が継続して使われてきたが、過去30年間で変化した社会のあり方、調査研究の進展、等を鑑みて原単位を再評価する必要性があると考えられる。これを受けて、藤村(2015)では原単位に関する検討が行われ、一部の項目で新たな値が提案された²⁾.そこで本研究では、湖沼水質保全計画で使われている原単位と藤村(2015)による原単位を用いて、印旛沼流域の窒素負荷量分布図を作成し、比較することにより原単位に関する検討を行った。
2.研究手法
印旛沼流域を、行政界と流入河川ごとの集水域で分割した区画ごとに、原単位に2010年の統計データを掛けることで、区画ごとに窒素負荷量を算出した.この統計データは千葉県環境生活部水質保全課から提供していただいた。窒素負荷量は、宅地からの生活系負荷量、家畜からの畜産系負荷量、山林や畑地などの面源汚濁負荷である自然系負荷量、事業場からの事業場系負荷量に分類できる.これらの分類した窒素負荷量を、印旛沼流域水循環健全化会議によって作成された2007年の土地利用図の土地分類ごとに、生活系負荷量は宅地に、畜産系負荷量は畑に、事業場系負荷量は市街地に、自然系負荷量は山林や畑地などの土地分類ごとに割り当てた.その後、流域の負荷量データの精度及び分割後の総メッシュ数を勘案し、250mメッシュに分割することで窒素負荷量分布図を作成した.得られた負荷量の妥当性を検討するために、全窒素濃度の水質測定地点を流出口とする集水域を設定し、その集水域における窒素負荷量と流出口における実測の窒素流出量を比較した.窒素流出量は、千葉県環境生活部水質保全課の観測による全窒素濃度と、印旛沼流域水循環健全化会議の観測による河川の流量から算出した.
3.結果・考察
印旛沼流域の各集水域の窒素負荷量と窒素流出量との相関関係をもとに、回帰モデルを導くと、両者の間に良好な直線関係が示され、集水域における窒素負荷が河川の窒素流出量を増加させていることが示された.湖沼水質保全計画の原単位を使用した場合、回帰直線の傾きは1.40となり、窒素流出量が窒素負荷量を大きく上回ったことから、窒素負荷量を大きく過小評価している可能性がある。一方、藤村(2015)による提案原単位を使用した場合、傾きは1.09となり、窒素負荷量が窒素流出量とほぼ釣り合う結果となった.しかし、現実の流出過程では、脱窒過程により負荷された窒素は減少すると考えられるため、窒素流出量が窒素負荷量を上回ることは考え難く、提案原単位においても窒素負荷量を過小評価している可能性がある。また、本研究で使用した窒素流出量は平水時の観測値から算出したものであり、降雨時のファーストフラッシュによる窒素流出量が考慮されていない。よって、湖沼水質保全計画の原単位はもとより、提案原単位においてもその値は過小評価されている可能性がある。
流域における窒素負荷量を正確に算定することは印旛沼の水質改善のための基本的なアクションである。今後は調査研究を推進することにより、水循環・窒素循環の実態に即した原単位の算定を行う必要がある。最終的には物理性に基づいたプロセス指向の水・物資循環モデルにより定量的な窒素循環の認識が望ましいが、流域の多様性、物理プロセスの複雑さに起因する解決すべき課題が多く残されている。降雨時の窒素流出量の観測、窒素流出量の季節変化に関する検討、等の課題を解決しながらより実態に合った原単位を求めることにより、印旛沼への窒素負荷量の精度を高めていく予定である。
謝辞
千葉県環境生活部水質保全課には貴重な資料の提供を頂いた。また、印旛沼流域圏交流会の方々から貴重なご意見を頂いたことに感謝の意を表します。
参考文献
1)Steffen,W.,Richardson,K.,Rockström,J.,2015,Planetary Boundaries:Guiding Human Development on a Changing Planet.Science,347(6223).
2)藤村葉子,2015,印旛沼・手賀沼の湖沼水質保全計画における面源負荷原単位の現状と課題について.第18回日本水環境学会シンポジウム.