JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW35] [EJ] 同位体水文学 2017

2017年5月20日(土) 09:00 〜 10:30 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、座長:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、座長:風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門深部流体研究グループ)、座長:浅井 和由(地球科学研究所)

09:25 〜 09:45

[AHW35-02] 立山地獄谷の温泉水の同位体比

★招待講演

*関 香織1大場 武2青山 慎之介1上野 雄一郎1神田 径1丹保 俊哉3 (1.東京工業大学 理学院 地球惑星科学系、2.東海大学 理学部 化学科、3.富山県立山カルデラ砂防博物館 )

キーワード:熱水系、温泉水、水同位体比、硫黄同位体比

立山地獄谷は飛騨山脈に位置する活火山で、現在は地獄谷と呼ばれる場所で活発な噴気・温泉活動が行われている。地獄谷は4万年前以降に繰り返し発生した水蒸気爆発によって形成され、地獄谷の直下には水蒸気爆発の発生場である熱水系が発達していることが期待される。近年、火山ガス組成の変化や硫黄溶岩の流出が観測されるなど、地獄谷の火山活動は高まっている。そこで、地獄谷の熱水系を明らかにすることを目的として、比抵抗構造調査や温泉水の化学分析を行ってきた。本講演では、温泉水の化学分析に焦点をあてて報告する。
温泉水の採取は、2014年から2016年にかけて行い、陰イオン濃度の他、同位体比(δ18Owater, δDwater, δ34Ssulfate, δ33Ssulfate)を測定した。水の同位体比(δ18Owater, δDwater)は、マグマ水と地獄谷周辺の天水を結ぶ混合線上に、全ての温泉水がプロットされた。水の同位体比と陰イオン濃度の特徴から、立山地獄谷の温泉水を、次の3つに分類した。①陰イオン濃度が大きく、その水の同位体比はマグマ水に近い値をとる温泉水。Cl-/SO42-濃度比は1に近い値を示す。②Cl-濃度の減少のためCl-/SO42-濃度比の時間的変動が大きく、水の同位体比はマグマ水と天水の間の値をとる温泉水。③Cl-を欠くSO42-が主体の温泉水で、陰イオン濃度も小さい。水の同位体比は地獄谷周辺の天水と変わらない値を示す。
地獄谷の温泉水の硫酸中の硫黄の同位体比(δ34Ssulfate, δ33Ssulfate)を2015年と2016年の温泉水で測定した。一般的に、δ34Ssulfateの高い温泉水は、初生的な硫酸で、SO2の不均化反応により形成される。一方でδ34Ssulfateの低い温泉水は、二次的な硫酸でH2Sの酸化によるものだと考えられている。地獄谷の温泉水のδ34Sは、-0.81‰から19.93‰の値をとった。③の温泉水のδ34Sは低いため、この温泉水中に含まれる硫酸はH2S起源である。一方で、①と②の温泉水のδ34S値は、温泉水の陰イオン濃度や水の同位体比と相関が見られなかった。また、同位体分別は質量に依存するため、平衡状態においてδ34Sとδ33Sの間に線形関係があることが知られている。立山地獄谷の温泉水は、この質量同位体分別からのずれ(Δ33Ssulfate)が-0.016‰から0.058‰に及んだ。更にΔ33Ssulfateとδ34Ssulfateには負の相関が認められ、Δ33Ssulfate=0(質量同位体分別の期待値)と、Δ33Ssulfate34Ssulfateプロットの回帰直線とが交わる、δ34Ssulfate ≒+9‰ が、地獄谷の温泉水を作る深部マグマの硫黄同位体比を表していると考えられる。
以上より、3タイプの温泉水の成因を考えると次のようになる。①熱水流体が地下浅部で気液二相にわかれ、その液相が天水とほぼ混じること無く湧出した温泉水。②気液二相の気相が、天水と様々な度合いで混合し湧出した温泉水。③地表水にH2Sガスが溶けた温泉水。
温泉水の化学分析と、地獄谷の地下比抵抗構造(Seki et al., 2016)を比較した結果、地獄谷の温泉水は500mより浅い場所で作られていることがわかった。特に、②の温泉水は、比抵抗構造でイメージングされた水蒸気爆発の誘発を促すキャップ構造の直下で作られていることが明らかになった。水蒸気爆発の発生は、地下浅部の温度や圧力状態が重要であるため、その変化を受ける浅部で形成された温泉水のモニタリングは、地獄谷の火山活動の推移を知る上で重要だと考える。