JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW35] [EJ] 同位体水文学 2017

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))

[AHW35-P03] 水試料の殺菌を代替する試料処理:炭素安定同位体測定に関する予察結果

*高橋 浩1半田 宙子1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:溶存無機炭素、炭素同位体、塩化ベンザルコニウム

水試料の炭素同位体測定を実施する際には,試料中の微生物の活動によって炭酸成分が変化しないように殺菌処理を行うことが推奨されており,海洋研究では標準手法となっている.しかしながら,陸水試料では,殺菌のための塩化第二水銀やアジ化ナトリウムといった毒物を使用できないことも多くある.さらに毒物の使用によって,環境リスクを高めることになり,廃液処理に時間やコストを要する等のデメリットも大きい.
我々は,毒物を代替するような,水試料中の生物活動を停止させるための処理について,いくつかの手法を検証してきた.NaOHの添加が生物活動の低減には効果があったものの,試料の化学組成によっては沈殿が生成してしまい,DIC分析には適さないものであった.また,NaCl添加による効果の可能性について,2016年のゴールドシュミット国際会議で指摘した.その検証を行ったところ,DIC濃度が低い試料では,NaClの添加によって,炭素同位体比が低めの値に変化してしまうことがわかった.DIC濃度についても,NaClの添加で低くなることが示され,NaClを毒物の代替とすることはできないとの結論を得た.
一方,塩化ベンザルコニウム(BAC)を環境負荷の低い代替物質として用いることが試みられている.Kuo(1998)では飲料水の分析のためにいくつかの代替物質を用いており,そのなかのひとつがBACである.Gloël et al. (2015) では,海水試料の溶存ガス分析に対してBACの効果を検討しており,短期的な試料保管であれば使用できるとの報告がある.しかしBACによって微生物は細胞死する作用があるはずであり,DIC分析に効果があると期待される.我々はいくつかの水試料を採取して,微生物活動を高めるために糖を添加した上で,BACの有無によるDIC濃度や炭素同位体比の変化を検証した.
予察的な結果しか得られていないが,これまでのところ4週間程度の試料保管では,BAC添加によりDIC濃度や炭素同位体比の変化が抑えられており,BACの効果は十分に期待できると考えられる.今後,さらに多くの試料を用いて検証を重ねていきたいと考えている.

引用文献
Gloël, J., Robinson, C., Tilstone, G. H., Tarran, G. and Kaiser, J. (2015) Technical note: Could benzalkonium chloride be a suitable alternative to mercuric chloride for preservation of seawater samples? Ocean Sci. 11, 947-952.
Kuo, C. Y. (1998) Improved application of ion chromatographic determination of carboxylic acids in ozonated drinking water. J Chromatogr A. 804, 265-272.