JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW35] [EJ] 同位体水文学 2017

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))

[AHW35-P08] 川崎市の都市化地域における浅層地下水の起源と窒素汚染に関する同位体的研究

*二神 孝憲1安原 正也1李 盛源1中村 高志2 (1.立正大学地球環境科学部、2.山梨大学国際流域環境研究センター)

キーワード:都市化地域、川崎市、浅層地下水 、水道漏水、下水漏水、硝酸イオンの窒素・酸素同位体

都市域の地下水環境は人為的な影響を強く受けており,そこでは自然状態よりもはるかに複雑な水・物質循環システムが形成されている.この都市域の地下水の水・物質循環システムに関する研究はいまだに少なく,研究事例の蓄積が待たれているところである.そこで,本研究では神奈川県川崎市高津区とその周辺の都市化地域を対象として,同位体的手法に基づき,地下水の起源の解明と特に窒素に焦点を当てた地下水汚染の実態・プロセスを明らかにすることを目的とした.
 井戸水と湧水を対象に,2016年の夏季に合計約30地点から地下水試料を採取した.台地部の井戸は相模層群・新期段丘堆積物中の地下水を,低地部の井戸は沖積層の地下水を対象としており,井戸の深度はいずれも15m以浅である.一般水質組成からは,地下水は大局的には台地部,低地部ごとにそれぞれ似た水質組成あるいは濃度を有する傾向が認められた.その一方で,同じ台地,低地部でも隣接する地点間で水質に著しい違い(不均質性)があることも分かった.この濃度の不均質性は硝酸イオンにおいて特に顕著であった(0.0-95.8 mg/L).
 酸素・水素同位体比は水道水が最も低く,湧水が最も高い値を示した.そこで,それぞれを水道漏水と降水浸透水の同位体比を代表するエンドメンバーとして,地下水中に占める水道漏水の割合(混入率)を算出したところ,全域において地下水中への水道漏水の相当量の混入が確認された.この地下水涵養に果たす水道漏水の寄与は多摩川沿いの低地部で顕著であった(最大で約40%).続いて,硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比から窒素の起源を検討した結果,台地部の地下水ならびに農地に近い一部の低地部の地下水中の窒素は主に肥料起源,そのほかの低地部(市街地)のそれは下水漏水起源であると推定された.また,台地,低地部の地下水とも,一部で脱窒プロセスの進行が認められた.
 本研究の結果,水道漏水が都市の浅層地下水涵養に重要な役割を果たしていること,さらに公共下水道が完備されて久しい都市化地域であるにもかかわらず,調査地域全域で窒素による地下水汚染が生起していることが明らかになった.特に下水漏水による地下水汚染の発生が強く示唆された.水道漏水と下水漏水の果たす水文学的な役割について,さらに正確な定量的評価が今後の課題となろう.