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[AOS15-08] トカラ海峡黒潮源流下において、自由落下曳航式乱流観測装置を用いて観測された、鉛直高波数水平流速シアに伴う帯状強乱流層
キーワード:Kuroshio, near-inertial shear bands, bands of strong turbulent layer
黒潮源流域である沖縄トラフ海域や、トカラ海峡海域は、半日周期の潮汐振動数が慣性振動数の2倍となる臨海緯度域(北緯28.9°付近)に当たる。この臨海緯度域では、半日周期の内部波が、パラメトリックサブハーモニック不安定を介し、効率的に鉛直高波数の近慣性内部波に変換され、海域の乱流混合を促進することが過去の研究で報告されている(MacKinnon and Winters 2005, Hibiya and Nagasawa 2004)。加えて本海域では、黒潮が沖縄トラフやトカラ海峡の浅瀬を流れるため、海底地形上を流れる地衡流が生成するlee波の発生が期待でき、これらは地衡流のバランスを崩すため近慣性振動を生じさせる(Nikurashin and Ferrari 2011)。また、黒潮が九州南岸で大きく南へ蛇行を強制されるため、黒潮の蛇行による近慣性内部波の自励的生成も期待できる(Nagai et al. 2015)。Rainville and Pinkel (2004)の現場観測によって、沖縄トラフやトカラ海峡での黒潮躍層での水平流速は、顕著な鉛直高波数の近慣性内部波に伴う帯状構造を呈すことが明らかとなった。黒潮南側の水平流勾配に伴う負の渦度や、水平流の鉛直シアによってこれらの近慣性内部波は、緯度によって一意に決定される慣性周期よりも長い周期を持つ近慣性内部波として、黒潮流軸下から南側の躍層に捕捉され、活発な乱流混合を引き起こしている可能性が指摘されている(Kunze 1985, Whitt and Thomas 2013)。しかしながらこれまで、沖縄トラフやトカラ海峡における乱流混合の直接観測は、殆ど行われていない。そこで本研究では、2016年11月12-20日にかごしま丸を用いて、乱流微細構造の観測を実施した。本観測では、自由落下曳航式乱流微細構造観測装置を用いて、黒潮源流を縦横断する面的な乱流構造の観測に1-2kmの水平解像度で成功した。かごしま丸船底に搭載されたADCPによる水平流の観測は、Rainville and Pinkel (2004)が示した帯状高波数の水平流鉛直勾配構造と類似した結果を示し、これらが大凡等密度面に沿って観測されることが判った。また、流れを無視して行った観測横断面での内部波の波群追跡結果は、観測した内部波の波束が近慣性内部波の振動数を想定した波群軌跡と類似したことから、観測した水平流鉛直勾配帯状構造が近慣性内部波に伴うものであることを示唆した。これらの水平流鉛直勾配のホドグラフや、回転スペクトル解析結果は、これらの帯状シアが、上下両方向にエネルギーを伝播する内部波であることを示した。自由落下曳航式乱流微細構造観測装置を用いた観測によって、躍層での散逸率としては著しく大きなO(10-7 W/kg)以上の乱流運動エネルギー散逸率が、ADCPで観測された鉛直高波数の水平勾配帯状構造付近で帯状に観測され、海域を伝播する近慣性内部波が黒潮源流下の躍層で砕波して乱流を帯状に生成していることが明らかとなった。観測された乱流運動エネルギー散逸率を既存の内部波に伴う乱流のストレインを用いたパラメタリゼーション(Kunze et al. 2006)と比較した結果、さほど明瞭ではないものの、パラメタリゼーションで求めた散逸率が実際に観測した散逸率と比例関係を示した。この結果は、現場で観測された帯状の強乱流層が、内部波の砕波によるものであるとする推察を裏付けるものである。観測した乱流運動エネルギー散逸率や浮力振動数をOsborn (1980)の方法に用い渦拡散係数を計算したところ、観測した強乱流層でO(10-4 m2/s)程度の拡散係数が平均して算出され、本海域を流れる黒潮の躍層付近では種々のトレーサーや運動量が鉛直的に拡散されやすいことが明瞭に示された。