JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS19] [EJ] 海洋気候モデリングの現状と展望(CMIP6/OMIPの紹介)

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 302 (国際会議場 3F)

コンビーナ:辻野 博之(気象庁気象研究所)、小室 芳樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:辻野 博之(気象庁気象研究所)、座長:小室 芳樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

14:45 〜 15:00

[AOS19-05] 確率分布関数を導入したモデルによる高解像度モデル開発への指針:北極海予測への応用

*池田 元美1,2 (1.北海道大学、2.海洋研究開発機構)

キーワード:モデル開発指針、確率分布関数、対流

将来予測のためのモデル開発を目指し、簡略ボックスモデルに確率分布関数(PDF)を導入した。北極海表層をボックスで表し、高密度の亜表層と鉛直混合すると共に、高温高塩分の大西洋とは海水交換する。海水温(T)と塩分濃度(S)平面上のグリッドで定義されたPDFは、水平方向の不均一性を表す(下図参照)。T−S分布は異なる水塊の存在確率を示すが、ボックス内での位置は保持しない。PDFの時間変動を基礎方程式として数値的に解く。その不均一性は外部海水と大気などの駆動力による変動によって増幅し、ボックス内の水平混合によって低下する。亜表層との鉛直混合は、PDFをその(T, S)に引き込む。
本研究ではボックスモデルを用いたが、中程度の解像度を持つ数値モデルの各グリッドにPDFを導入して、サブグリッド現象を表すことも可能である。その結果は、PDFモデルでは不均一性とされたプロセスを陽に表す高解像度モデルに関して、その挙動を示すと考えられる。
このPDFボックスモデルを、地球温暖化によって海氷が減少している北極海に応用する。大西洋から流入する海水は、バレンツ海を経由する際に海氷生成が低下すると塩分追加が減り、北極海表層(0-200m深)と亜表層(200-500m深)の密度差が小さくなる。表層ボックスは大気の影響と河川水流入を受け、南のグリーンランド海と海水交換し、亜表層と鉛直混合する。
簡略ボックスモデルは、グリーンランド海から流入する海水を低塩化して戻す塩分駆動解、および亜表層と完全に混合する対流解を持っている。PDFボックスモデルは、季節変動に相当する不均一性増幅を与えると、簡略ボックスモデルの塩分駆動解に近い解と、対流解に近い解の2つを持つ。他の条件は同じにして、不均一性を2倍にするか、あるいは亜表層塩分を0.1だけ下げると、対流解に近い解のみに収束する。すなわち、近い将来において、北極海表層が亜表層と混合し、その海氷が顕著に減少する状態が起こりうることが示された。
地球温暖化によって海氷分布に出る影響を明らかにすることは喫緊の課題である。表層が水平に一様であると亜表層と混合しにくいが、中規模変動、対流チムニー、海氷リードなどの不均一性があると、一部で表層が高密度になり鉛直混合が拡大する。将来予測への示唆として、海氷リード中の結氷と対流チムニーまで考慮したモデルが必要である。
文献:Ikeda, M., 1997: J. Phys. Oceanogr., 27, 2576-2589.